第四章
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それでもだ、こう言うのだ。
「やれるだけやるわ」
「じゃあまだまだですね」
「やられますね」
「来年も」
「やるわ、やれるだけな」
こう言ってだった、彼はまだ現役を続けるつもりだった。それで山田の引退試合も見送るつもりであった。
シーズンは終わりに近付き遂にこの時が来た、山田の引退の時が。
誰もが別れを惜しんだ、山田はそこまでの大投手であるからこそ。
福本はその山田にだ、こう言った。
「今までよおやったな」
「ああ、フクさんはまだやるんやな」
「もうちょっとだけやるわ」
福本は微笑んで山田に答えた。
「一年位になるかも知れんけど」
「そうか、ほな頼むな」
「ああ、そうさせてもらうで」
こうしたやり取りをしたのだった、彼は引退するつもりはなかった。
それは上田もわかっていた、彼はそのうえで監督として一年の最後のスピーチの舞台に立った。
西宮球場のマウンドに立つ、そのうえで。
マイクを手にファン達に一年のことを語る、そして言うのだった。
「山田も引退します」
「残念や」
「ほんまにな」
ファンの誰もが残念がった、だが。
ここで上田は言ってしまった、ついつい間違えてしまったのだ。その間違えて出してしまった言葉はというと、
「去る山田、そして福本」
福本に残るという言葉をかけ忘れた、これに誰もが驚いた。
「えっ、福本もか!?」
「福本も引退するのか」
「そんな話聞いてないけれど」
「そうか、福本ももう歳だしな」
「じゃあ仕方ないな」
「引退するのか、福本も」
「そうだな」
こう話してだ、そしてなのだった。
ファン達は納得した、しかし。
上田のその言葉を聞いた福本はびっくりした、そして自分自身を指差して言うのだった。
「えっ、わしも引退するのか」
「そうですか、フクさんも引退を決意されてたんですね」
「そうだったんですね」
阪急ナイン達はその福本にしみじみとして言って来た。
「今までお疲れ様でした」
「山田さんと一緒に引退されるんですね」
「後はわし等に任せて下さい」
「やらせてもらいますんで」
「いや、わしはまだ」
言おうとした、だが。
上田も言ってしまったし自分の歳もわかってた、それでだった。
言おうとした言葉を引っ込めて納得した、それで言うのだった。
「ええか、そやったら」
微笑んでこう言った、そしてだった。
彼は引退を決意した、その彼に上田がスピーチの後で慌てて来て言って来た。
「フクすまん、あれは言葉のあやで」
「いやいや、わしも歳ですし」
「ほな引退するんかいな」
「ええ頃合ですやろ。そうですさかい」
「そうするんか」
「はい、今年で」
今終わったばかりの今シーズンでだというのだ。
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