第三章
[8]前話
晴信は源助を下がらせた、そのうえで飯富に言うのだった。無論他の家臣達もまた下がらせて二人だけになっている。
二人だけになって飯富にだ、こう言うのだ。
「何とかな」
「源助は戻ってきてくれましたな」
「うむ、よかったわ」
ここでようやく言葉を出した、安堵の言葉である。
「全くのう」
「そうですな、しかしです」
強い声でだ、飯富は晴信に言った。
「この度のことは」
「源助は気付いておるな」
「あの者の智恵は勘助に比します」
武田の軍師である山本勘助にも比するというのだ、それが彼だというのだ。
「ですから」
「やはりそうか」
「しかし御館様がご自身で文を書かれましたな」
「そのことがか」
「はい、あの者に届きました」
主が家臣に文を送ることの意味は大きい、それは功を挙げた家臣に謝状を送れば褒美になることからもわかることだ。
主自らのそれを受けてだ、源助もだというのだ。
「そこまで大事に想われていることが」
「それでか」
「源助は戻ってきました」
そうなったというのだ。
「晴れて」
「そうか、よかったわ」
晴信は飯富の言葉を聞いてまたほっとした、それで言葉を出すのだった。
「全くのう」
「ですが」
「うむ、わかったわ」
今度は真摯な顔になって言う晴信だった。
「おのこものこともな」
「難しいのです」
「そうじゃな、実にな」
「恋路はおなごとだけではありませぬ」
おのこともだというのだ。
「妬くものであります」
「全くじゃ、ではこれからはな」
心から懲りている顔でだ、晴信は言った。
「おのことのことも気をつけるわ」
「それがよいかと」
「人は難しい」
おなごであろうとおのこであろうとも。
「それがよくわかったわ」
しみじみと言う晴信だった、彼にとっては痛い経験だった。
この話は史書にも残っている、武田信玄が男の道にも通じていてこの件の文も実際に残っている。名将の人間的な面白い逸話と思いここに書き残した。後世の人がこの話を読み楽しんでくれれば幸いである。
詫び状 完
2013・7・27
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