第三章
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「高校の部活なんだよ」
今度の返事はこうだった。高校生だという。
「陸上部。名前は」
「名前は?」
「楠未樹」
名前を名乗ってみせたのだった。
「それが私の名前だよ」
「楠未樹。陸上部か」
「そうだよ。覚えてくれたかい?」
「覚える必要はないが覚えたな」
ぶしつけに言葉を返した。こうした言葉になった理由はやはり今までのやり取りが大きな原因である。
「橘さんっていうのか」
「そうだよ。学校じゃ未樹って呼ばれてるよ」
「未樹か」
「どっちで呼んでくれてもいいさ。こっちはどっちでもいいしね」
「そうか」
「ああ。それでね」
その少女未樹は自転車のすぐ側まで来ていた。そのうえで赤藤に応えるのだった。
「また明日もここを走るんだよね」
「ああ」
未樹のその言葉に座ったまま頷いてみせた。
「そのつもりさ。走るのは続けるさ」
「それはいいことだね」
「スポーツ選手だからな」
それを理由としていた。しかし理由以上のものがここにはあった。
「走るのは好きだしな」
「へえ、意外だね」
「好きじゃないとやれないさ」
こうも言ってみせた。
「走らないとピッチャーになれないんだよ」
「そうらしいね。じゃあまた明日ね」
「あんたは自転車か」
「さてね」
今の質問には惚けてきた。
「どうなるかわからないね、それは」
「?どういうことだよ、それって」
「それは明日わかるよ」
やはり答えようとしない。赤藤はそんな未樹の言葉にどうも違和感を感じるのだった。
「明日ね」
「明日か」
「明日は絶対来るしね」
顔は見ていない。しかし声は聞こえる。その声がにこりと笑っているのがわかった。赤藤にも。
「その時わかるよ」
「明日か」
「そう、明日」
明日という言葉を強調する未樹だった。
「明日は来るからね」
「そうだな。生きている限りはな」
「生きていればね。じゃあまた明日ね」
「ああ、明日な」
未樹の言葉に頷く。後ろから自転車の音が聞こえる。赤藤は自転車のその音を聞きながら座り続けていた。しかし音が聞こえなくなるとゆっくりと立ち上がった。
「明日か」
明日という言葉がやけに耳に残る。その中で身体を動かしそれからトレーニングを再開する。川辺から目を離しランニングに入るのだった。
その次の日。また岸辺の道で走っているとその横に。一つの影が来た。
「んっ!?」
「こんにちは」
未樹だった。髪を後ろで束ねて青いジャージを着て走っている。
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