反董卓の章
第21話 「それで……ぃい……」
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「……ぁ、せぃ……」
抱え上げた主が、おぼつかない声で口を開く。
顔中血まみれになりその血で赤く染まりながらも、その顔は今にも命の灯火が消えそうなほどに青い。
殴られた場所は鬱血しているようで、腫れ上がっていた。
(あの主が……無敵だと思っていた主を、よくもここまで――)
私はその視線を、主の直ぐ側で倒れている呂布へと向ける。
その姿は主とあれだけの死闘をしたにも拘わらず、その顔は崩れてはいない。
ただ、右頬が少し腫れ上がっているだけだ。
どちらが優勢だったのか、それだけで誰でも判る。
「主……よくぞ、よくぞ……」
あれだけの相手に正面から立ち向かい、劣勢であるにも拘わらず最後まで一人で立ち向かいなされた。
そして相討ちにまで、よくぞ持ち込まれた――
「私は、私は、主を誇りに思いますぞ……」
「……っせやぃ……か……ってねぇ……」
『よせやい、勝ってねぇ』……こんな時まで謙遜なさるか。
この人は……いや、この方は。
どこまで英雄であらせられるのか。
何も出来ないこの身を恥じると共に、『これが我が主ぞ!』と叫びたい衝動に駆られる。
「――っ」
思わずこみ上げる涙に、唇を噛み、無理やり口元を引き上げた。
「……は、ははっ。主は相も変わらず、ですなっ……ほん、本当に、私は誇りに思いますぞ……」
「……っ……で、なく……?」
「んっ、あぁ……噴煙が目に染みるだけです」
「……へ……ぇ……」
そう言って、膨らんだ顔のまま笑おうとする主。
その顔に、思わず私も笑みがこぼれた。
「………………ぅ」
「……!」
不意に、呂布が呻く。
私は、はっとして主を抱き寄せ剣を抜いた。
「……………………」
だが、呂布は起き上がる気配を見せない。
いや、きっと起き上がることも出来ないのだろう。
主は確かに、呂布を打ち倒したのだ。
(ならば今のうちにトドメを――)
剣を握る私の手は、その頭蓋に叩きつけようと振り上げる。
そして赤い髪の頭部めがけて振り下ろそうとして――
「……………………」
その手を止める。
私が振り下ろそうとした手を止めたのは――主ではない。
粉塵と黒煙の中、呂布の傍に佇む、一人の少女だった。
「ひっく……ひっく……」
その少女は……泣いていた。
眼にいっぱいの涙を溜め、流れ出る涙を拭おうともせず、呂布の身体に跳びつき、背中で盾となっている。
「………………」
私は無言でその手を振り上げたままで固まり、その振り下ろす場所に躊躇する。
今、この時。
呂布を殺す、千載一遇の好機であるはず――
「ヒック…
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