第一章
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ッドに寝ていた。そこで医者と話をしている。医者は彼の枕元に立ってそこで赤藤が広げているスポーツ新聞を見ながら話をしているのである。
「実際のことは秘密です」
「貴方もそうですね」
「まさか自分がこうなるとは思いませんでした」
言いながらここで自分の右腕をチラリと見るのだった。
「全く」
「とりあえず手術は成功です」
医者はこのことを告げた。
「後は時間が経てば」
「何時から復帰できますか?」
赤藤にとって最大の関心はそれであった。何時復帰できるか。だからそれを聞かないわけにはいかなかったのだ。実際にそれを聞いてきた。
「俺は。何時」
「手術は成功しましたがやはり右腕がなくなりかねない程でしたので」
「かなりかかりますか」
「申し訳ありません」
頭を垂れて赤藤に告げてきた。
「少なくとも六月には」
「そうですか。かなり長いですね」
「腕以外のトレーニングはいいです」
それは保障するのだった。
「ですからランニング等は」
「ええ、それは助かります」
それを聞いてまずは安心する赤藤だった。ピッチャーは下半身も重要である。彼とて例外ではなくその足腰はかなりのものだ。毎日何十キロも走り込んでもいる。トレーニングは欠かしていないのだ。
「少しでもそうしてトレーニングを積んでおかないとね」
「はい。ですから退院後は」
「わかりました。まずは下半身を」
その話はすぐに決まった。しかしであった。
「けれど。それでも」
「無理はなさらずに」
何はともあれ退院後早速赤藤のトレーニングは再開された。言うまでもなく復帰の為でありランニングを中心として日々続けられた。だが右腕だけは動かなかった。
「もう復帰しているのか」
「案外早いな」
チームメイトもマスコミもそんな彼を見てこう言い合っていた。彼等は何も知らなかった。赤藤の右腕が本当はどういった状況なのかを。
「まだか」
時折己の右腕を見て呟くのだった。
「動かない。まだ動かせないか」
「足腰は健在だな」
「後は待っていればいいな」
周りは無責任な楽観論を述べるだけだ。しかし彼は違っていた。
やはり右腕は治ったと実感できない。それでもそれを心に押し隠してトレーニングを続ける。来る日も来る日も走り続ける。ただひたすら走っていた。
その彼が走る川辺で。ふと自転車と擦れ違った。そこに乗っていたのは黒く長い髪を持つ少女だった。大人びた顔立ちの背の高い少女だった。
「奇麗な娘だな」
赤藤のその娘の横顔を見ての最初の感想だった。
「モデルかな。違うか」
すぐにその可能性は否定した。
「高校生かな。まあいいさ」
すぐに考えをそこから移した。そしてまた走りはじめる。何キロも何キロも走る。まるでそれで生きているかのように。彼は走り
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