第七十三話 帯の力その十
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「契約違反はしないんだよ、もっとも契約を利用して何かをするってことは多いけれどな」
「けれど契約は守るんですね」
「絶対にな」
キリスト教の悪魔はそうするというのだ。
「むしろ人間よりもずっと厳しいな」
「ずっとですか」
「メフィストフェレスだってそうさ」
文学に出て来る最も有名な悪魔の一人だ、その知的で紳士的なキャラクターが今も多くの作品に影響を与えている。
「あの悪魔も契約は絶対と考えてるからな」
「それでなんですか」
「ああ、悪魔っていうのはな」
契約に五月蝿いというのだ。
「契約で成り立ってるんだよ。キリスト教の悪魔はな」
「他の宗教の悪魔は違ってもですか」
「そうさ、むしろ天使より契約に五月蝿いな」
「天使よりもですか」
「それであの人達もな」
聡美達の話に戻った、キリスト教の悪魔から。
「契約についてはな」
「守ってくれるんですね」
「ちゃんとな、有り難いことにな」
「だから先生も願いが適って」
「あいつもな」
広瀬、彼もだというのだ。
「もう少ししたらそれが表に出て来るな」
「ですか」
「これで二人か。俺もな」
「中田さんも。願いを」
「ちょっとあの人達と話してみるな」
頭の後ろで両手を組みベンチに背をもたれかけさせた、そのうえで言ったのである。
「これからな」
「じゃあ中田さんも戦いから」
「俺は家族が元気に起きてくれればいいんだよ」
事故による傷から無事にだというのだ。
「そしてまた元気に暮らせばな」
「それで、ですね」
「ああ、いいんだよ」
こう言うのだ。
「それでな、だからな」
「だから?」
「俺は家族さえ戻ってくれればいいから」
だからだとだ、中田は己の身体を前にやって自身の両膝の上に両手を置いた、そのうえでその手を組んで言った。
「誰でもいいんだよ」
「じゃあセレネー女神ともですか」
「そうさ、あの女神さんが俺の願いを適えてくれるのならな」
それならというのだ。
「俺はあの女神様につくさ」
「あの、それは」
「よくないっていうんだな」
「そうさ、願いを適える為には俺は誰にでもつくさ」
そうしてでもだというのだ。
「恥でも何でも背負ってもいいさ」
「あの、それは」
「間違ってるとか関係ないんだよ」
そうしたこともわかっていた、だがそれでもだというのだ。
「俺はまた家族と一緒に暮らすさ」
「ですか、けれど」
「ああ、そこから先は言わないでくれよ」
上城の目が曇ったのを見てだ、中田は笑って返した。
「ちょっとな」
「そうですか」
「それを言ったらっていうだろ」
ある名作映画シリーズの言葉も出した。
「だからな」
「それじゃあ」
「言葉ってのは言ったら終わりなんだよ」
もうそれで
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