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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の2:敗北
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マティウスは構えながら最大火力の魔術を繰り出した。途端に、マティウスを中心として凄まじい閃光と衝撃波が広がり、廃屋も瓦礫も圧潰した。光が止んで数秒後、マティウスの身体に風雪が振りかかる。その魔術の行使によって数秒もの間、自然の猛威が妨げられたのである。
 それは『天雷』と名付けた、マティウス渾身の一撃であった。風雪や瓦礫、道を遮るすべてのものを文字通り『かき消す』代物で、罠に掛かって尻餅をついている相手へと直撃した筈である。魔力の残滓が満ち溢れて、視界を猛雪が占拠しているために気配を探るのが難しいが、それもすぐに明らかになるだろう。
 マティウスは気だるさを感じる身体を起こし、自らの勝利を確信していた。視界の奥から恐ろしい速さで迫ってきた、巨大な瓦礫を目にするまでは。

「なにっ!?」

 慌てて雷撃を打ちだす。瓦礫は真ん中を射抜かれて四散し、それを分け入るかのように人影が露わとなる。狂王の首飾りを身体に埋め込み妖しき錫杖を振り翳す、慧卓であった。

「むぅっ!?」

 理解するよりも前にマティウスの本能は働いた。咄嗟に杖を前に構えながら身体全体に『障壁』を張る。光の杖と錫杖が交錯し、飛んできた慧卓に激しい勢いで倒された。『障壁』を張っていなければ後頭部を強打して気を失うか、或は脳挫傷でも起こしていただろう。
 一気に近距離戦へと事が運び、慧卓は挽回の暴力を振るう。杖を使ってマティウスを無理矢理に地面に押し付けながら、拳に魔力を籠めて何度も殴りつけていく。城塞のごとく堅固な『障壁』に段々と罅が入っていくが、同時に慧卓の手もぼろぼろーーーそれこそ骨や神経がむき出しになるほどーーーになって、鮮血が二人と地面を濡れていく。治癒のスピードが追いつかぬほどに乱打していき、やがて手首がバキリと折れる音も響いたが慧卓は殴打を止めない。人間の五感そのものが機能していないかのようで、まさに人形の如く無機質なものであった。
 遂に、ボロ雑巾以下の体裁となった慧卓の右手が、マティウスの『障壁』を貫いて雪を穿った。それは慧卓にとって絶好の機会であり、同時にマティウスにとってもそうであった。彼は雪から抜け出しかけた慧卓の手を握ると、魔力のままにそれを千切った。一瞬相手の態勢が崩れ、それを突くが如く「しぇぇっ」と奇声を発しながらマティウスは慧卓を押し退けて、その顔面へと光の杖を突き刺した。そして杖を更に押し込みながら、むんずとばかりに錫杖を握り、それを奪い取る。

「図に乗るな、若造っ!!」

 鐘を打つように錫杖を突いて相手を引き離す。仰向けに寝転んだ慧卓は光の杖をどうにか引っこ抜いて無機質に相手を睨みーーーその瞬間、首が真後ろに捻転した。マティウスが全力で錫杖を振り抜いて彼の横っ面を殴り、その首をへし折ったのである。
 慧卓の身体はびくびくと痙攣す
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