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王道を走れば:幻想にて
幕間+コーデリア:王女のワルツ
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うする事も出来ず、やや困惑げに会場へと目を戻した。国王は春の陽射しのような温かな眼差しで、男役に抱かれながら軽く宙へと跳躍した、娘の美しい笑みを見ていた。

「良き顔をしておるではないか、コーデリア。それでこそ王女であるぞ」

 ワルツは終局へと向かう。見せ場の一つが近付きつつあった。舞踊者はそれぞれ、馬の蹄のようにパカパカと靴を鳴らしながら左右へと別れると、踊りながら舞踊者全員で大きなL字を描くように並び立ち、そのまま中央に向かって進出する。難しいのは此処だ。円を描くステップを踏みながら幾つものペアと交錯しなければならないのである。勿論、全員の動きに調和が取れている状態でだ。
 弦楽の盛り上がりに合わせて、舞踊者は身体を運んでいく。交錯する際には僅か数センチの距離まで接近するため、足を踏まないか、レースを踏んだりしないかが一番心配な所だ。しかし幸運の女神が味方をしたか、全員が無事に交錯を終了し、大広間には拍手喝采が鳴り響いた。ここさえ抜ければ後は楽なものだと、コーデリアは胸を撫で下ろす。
 最高潮へと向かう音楽に心が湧きたち、舞踊隊は再び大きな円を作っていく。そして最後に凛と広まる弦に合わせて、観衆の方へと向きながらぴたりと足を止める。走り気味だった拍手に重なるように、大勢の人々が手を鳴らしていく。舞踊は無事に成功したようであった。一礼をしても拍手は止まず、改めて一礼する事となってしまった。

「・・・トニー、今日は有難う。御蔭で愉しき踊りとなりました」
「殿下のためとあれば、私は全てを捧ぐ心算であります。何卒、どうぞこれからも私めを御信頼いただければ、騎士としてこれ以上の誉れは御座いません」
「・・・あなたの覚悟を受け取りました。では早速、あなたの信頼をお借りさせていただきます」
「はっ。いかようにも」

 従順な返事にコーデリアは悪戯げな笑みを浮かべ、とある方と見遣る。そこには、明らかに『トニー』に熱い視線を送る令嬢ら、そして何故か夫人の幾人かがいたのであった。『トニー』は思わず頬を引き攣らせる。
 本日のキャロルのメインイベントは終了したが、しかしキャロル自体は終了では無い。華々しい社交界はこれからが本番だといわんばかりに、参加者自由の大舞踏会を展開していくのである。コーデリアの行動は明らかにそれを回避するための行動であった。

「あなたに熱を上げておられる方がいらっしゃるようなので、その方の御相手をお願い致します。私はお父様の下へと参りますので」
「ね、熱を上げて・・・?あ、あの、王女様。いかに私と言えどさすがにこんなに沢山は・・・」
『トニー様っ』「うわっ・・・」

 背後から聞こえる白熱した様相にくすりとしながら、コーデリアは物怖じせずに父君の下へと向かう。王座の前に立つと、彼女は恭しく礼をした。


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