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王道を走れば:幻想にて
幕間+コーデリア:王女のワルツ
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にあえて作られた空間へと向かう。天井に吊るされたシャンデリアは美しい火を燈し、壁に掛けられた燭台は一縷の優しさを与えてくれる。赤い大輪を咲かせる観葉植物はまさに貴族趣味といったもので、それに群がるように貴族の御婦人方が集っていた。それらの何れもが商家から嫁いできた者達であったのには苦笑せざるを得なかったが。
 早速、居並ぶ貴族らが、王女らの衣装について評価を始めているようであった。聞く限り、全てが好意的なものであった。

『流石は王女だ。天晴れと言わざるを得んな』
『ええ、本当に。女の私から見ても羨ましく思える程の美しさ。亡き女王陛下によく似ていらっしゃる』
『連れ添っているのは知らん顔だな。赤髪の騎士とは・・・お前は見た事があるか?』
『無いな。私の部下は皆黒か茶だ。赤はおらん』
『凛々しい御方ですわね。貴族の中でもあまり見ない感じの方ですわ・・・私、あの美男子に今度声を掛けてみます』

 コーデリアは可笑しな思いを抱かざるを得なくなり、『トニー』に囁く。

「聞きました?美男子ですって」
「そんなに嬉しそうに言わないで下さいよ、王女様」

 『トニー』は凛々しさを失わせぬ表情で、諦めきったように小声で返す。女を捨てるとかいいながら未練たっぷりなのがまた、面白く感じてしまう。
 中央の空間へと進むと、若者らはそれぞれのペアに別れて間隔を開ける。それを見た執政長官が、弦楽隊の首席奏者であるオレリアに頷く。彼女はそれを受け取ると、傍にいる仲間等に合図を送らんとした。いよいよ舞踊の本番である。

「それでは、お手柔らかにお願いします、トニー様」
「精一杯、御相手を務めさせていただきます、王女殿下」

 低い三拍子を始まりとしながら、弦楽隊は新たに打楽器を加えて音楽を奏でていく。優美なワルツの時間である。弦が一斉に鳴らされるのに合わせて、若々しい紳士一同が礼をして、その手を恭しく女性が取った。両者は互いの手を握って腰を優しく抱くと、ワルツの代名詞ともいうべき円を描くようなステップを踏みながら、華麗に舞踊を披露していく。 
 宮廷で行われるワルツは当り前な話であるが、農民達がやる猪がどつき合うかの如き激しいものではない。ひたすらに貴族としての素晴らしさを追求せんかの如き、上品な舞踊である。聴衆の目を愉しませるように、舞踊者全体で大きく、時計回りに円を描くように動いていく。靴の音がやたらと響くのは無作法であるため、弦楽隊はここぞとばかりに弦を強く弾いていた。転調がほとんど無いのに退屈が来ないのは、典雅な音楽と温かな舞台が見事に調和しているからだ。余談だが、ワルツの作曲者には金貨数十枚が恵まれてもいいだろうと、レイモンドは本気で考えていた。
 さて、このワルツであるが、流石に一辺倒な動きだけはつまらない。そこで身体が温まってく
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