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王道を走れば:幻想にて
幕間+コーデリア:王女のワルツ
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器の演奏であり、そして舞踊であった。しかしコーデリアは情けない事に、どれ一つとして得意としていないのである。

「いえ、まだ何をするのかは決めておりません」
「ふむ。先日、ミシェラン侯爵と話した時にな、あやつの娘は踊りでは無く、聖歌を歌う事にしたそうだ。そなたがもし踊りが嫌だというのなら、私が一声掛けて、そなたを聖歌隊の旗手とさせよう。そなたの歌声はとても安らかで美しいものだ。誰しもがそなたに魅了されるであろう」
「そんな、聖歌隊だなんて・・・。申し訳ありませんが陛下、私は聖歌隊に入る気は御座いません」
「そうか。では音楽隊の指揮者とさせよう。左手でリズムを取り、右手で皆の音を導くのだ。何が流れるかを知っていれば、さほど難しいものではないだろう」
「・・・いえ、お父様。私は音楽隊にも入りたくありません」

 ニムルは一瞬紅茶を飲もうとした手を止めて、再びそれを口に含んでからコーデリアに告げる。それはどこか叱責するような声であった。

「コーデリア。キャロルに参加する若き貴族は皆、歌か、踊りか、楽器か、どれかを選ばねばならん。それは王族も例外ではない。私も若い頃はリュートを奏で、そなたの姉君も歌を歌った。若干音痴だったがな。
 どれも選ばぬ貴族というのは、祭典を盛り下げるだけではなく、貴族としての恥を晒すと同じだ。確かに、そなたは今まで歌も踊りも楽器も得意ではない。だからといってどれも選ばないというのは、認められんのだ」
「・・・分かってはいます。ただ・・・」
「・・・あの若者が居ないのが寂しい、か」
「っ!!」

 図星を指されたか、コーデリアは分かりやすいまでに肩を震わせる。その若々しくも、政界には向いていないだろう返し方にニムルは微苦笑を浮かべる。
 詰まる所こういう事だ。どんな芸を披露するにせよ、一番それを見せたいであろう人が宮廷に居ない事が、彼女のやる気を下げているのである。その人物は既にニムルの知る所であり、だからこそ追求は避けたのだ。若い者の恋路を老人が邪魔する等、邪道であり、無粋である。老人が出来る事と言えば、若者が逆上しないよう可能な限り穏やかに、そして耳を傾けるよう親身になって助言をする事であった。

「コーデリア。恋を患う事は、悪いとは言わん。そなたも年頃だ。若い男を好きになる事もあるだろう。だが時には恋の視点から離れる事も肝要だ。周りをよく見て、自分がどんな人間なのかを知りなさい。そうすれば自ずと道は開ける筈だ。
 ・・・これは私の言葉ではないがな、コーデリア。『汝、人を愛せよ。されど隣人の友誼を忘れるべからず』。どれだけ人を愛していようと構わない。その人自身の想いがあり、愛があるのだから。だがそれを想うあまり自分を見落としてはならん。自分の価値を貶めてはならん。そなたを想う者は、そなたが思う以上
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