焦がれる夏
参拾参 舞い上がるたま
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りなさい」
考え込んだ藤次に、球審が促す。
その言葉には従うしかない。
何も打開策は浮かんでこない。
打席で構えると、また琢磨が即座に振りかぶる。
悩んでいる藤次に斟酌する事などない。
(打てへん…どうせ打てへんのやスライダーは!)
ボールは来てしまう。
藤次の思いとは関係なく。
(何でもええから振るしかないわ!)
琢磨はコンパクトなフォームから投げ込んでくる。それは前の打席と同じように、高めに釣り球のまっすぐ。ボールゾーンのその球を、藤次は左手を右手にかぶせるような大根切りでがむしゃらに振り抜いた。
カーーン!
高い音が響いた。
ーーーーーーーーーーーーー
応援席はその打球の角度に、一気に湧き上がった。歓声と、驚愕の声。ここまで足を引っ張っていた藤次の打球に、皆目を見開く。
「いけぇーーーっ!!」
真理はメガネが落ちるほどに飛び跳ねながら叫んだ。
(…入って!)
玲は目を見開く周囲とは逆に、目をぎゅっと瞑って祈った。
ーーーーーーーーーーーーー
トンッ
フェンスに張り付いたライト筑摩の向こう、外野の芝生席に、高々と空に舞い上がった白球は弾んだ。ライトの筑摩はそのままフェンス際で崩れ落ちる。一塁塁審がその右手をぐるぐると回す。
ワァアアアアアアア
県営球場に、怒涛のような大歓声が満ちる。
5-4。延長11回、ついに均衡が破られた。
大会を通じて不調だった、5番藤次のソロホームラン。
「入った!?入ったの!?」
足下に落ちた眼鏡を探しながら、真理は周囲に尋ねる。直後、喜びのハイタッチを求める同じ応援団員にもみくちゃにされる。
(良かった…)
玲はホッと胸を撫で下ろしていた。
これで極限状態の真司にも、心の張りができる。
「鈴原ーーッ!いいぞォーーッ!!」
美里が生徒と同じように派手にガッツポーズしながら叫んだ。
「「「抱き締めた命の形
その夢に目覚めた時
誰よりも光を放つ
少年よ神話になれ!」」」
学園歌がスタンドに溢れた。
ーーーーーーーーーーーーー
打った本人の藤次はガッツポーズをする事もなく、駆け足で素早くベースを一周し、ホームベースを踏んだ。踏んだ瞬間、立ち止まった。
「……どやセンセェ、ワイはやったで!打ったったで碇ィ!見たかコラァアア!!」
絶叫すると、ダッシュで自軍ベンチに戻った。
大喜びのネルフナインにハイタッチされ、頭を叩かれ、もみくちゃにされる。
打った藤次の目は真っ赤。その顔には、汗ではない雫が滴り落ちる。
やっと、やっと、力を発揮した。
それが値
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