白い棺掛け
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いささかの後悔がおありですか」
レンネンカンプを見捨てるような行動、発言をしたことについてであることは、説明がなくとも分かりきっていた。少なくとも二人の間では余計な説明の必要はなかった。
オーベルシュタインは部下の質問を正しく理解すると、小さくかぶりを振った。
「いずこかに潜むメルカッツ一党とヤン・ウェンリーを処分するのに、あれ以上効率的な手段は、少なくともあの時点では考えつかなかった。ゆえに、最善の努力をしたと信じている。こうなる可能性も考慮に入れていたが、それでも尚、実行するだけの価値があると考えていたし、それ自体が間違いだったとは思えぬ」
揺るがぬ表情で、オーベルシュタインは尚も遺体を見つめたまま淡々と述べた。
おそらく、上官の言葉は偽りではあるまい。どのような最悪の結果になろうとも、その時点でできうる最善の選択をしたのだと、彼は言ってのけるだろう。だがそれでも、数ある可能性のうち最も悲惨な結果に終わったことに、運命の無情さを感じるのだろうか。
オーベルシュタインがガラス棺の足元の方へ体を寄せて、滑らかな素材でできた白い棺掛けを引き寄せた。黄金獅子(ゴールデン・ルーヴェ)の紋章が縫い込まれたその布を、丁寧に棺の上へと掛ける。胸元まで掛けてやり、顔だけが見えるようにしてから、可聴域ぎりぎりの声でぼそりと呟いた。
「私を恨むがよい、それで気が済むならな」
内容に反してひどく穏やかで優しく置かれたその言葉の意味を、フェルナーはやはり解することができなかった。オーベルシュタインは今度こそ棺掛けを最後まで掛けると、用意してあった樒の花を置き、その後は二度と振り返らずに葬儀委員長として残った職務へ取り掛かった。
外の小雪が、日暮れと共に本格的に降り出していた。
後日、元帥への昇進を果たせなかったレンネンカンプの遺族の元に、『元帥としての』遺族年金が支給される旨の知らせと、相応の供花が届いた。首席秘書官からその報告を受けた皇帝ラインハルトが、更にその1時間後、それらの手配の指示を出したのが軍務尚書オーベルシュタインの元帥であったことを知り、意外そうな顔で笑ったという。
(Ende)
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