白い棺掛け
[1/2]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
ヘルムート・レンネンカンプ上級大将の密葬は、新帝国暦1年11月に執り行われた。生前の階位に比すればいささか簡素で寂しい葬儀であったが、彼がヤン・ウェンリーを不当に拘禁したことに端を発する自死であったことから、部下たちでさえ公然と不平を言うものはなかった。無論、故人にも非のあったことであろうが、勇猛果敢な将帥たちが一様に口を閉ざす姿に、軍務省官房長アントン・フェルナー少将は故人への同情を感じていた。
「お疲れ様でした」
小雪の降る中行われた式を取り仕切ったのは、上官であるパウル・フォン・オーベルシュタイン元帥であった。参列者の姿が完全に消えたところで、オーベルシュタインは遺体の入ったガラス製の棺の前に立っていた。
「ご苦労だった」
手足となって細々と動いてくれた部下を、作り物の目で一瞥してから、軍務尚書はガラスケースの中を覗き込んだ。
「どうなさいました、閣下?」
既に十分検分されたはずであるが、遺体に何か不審な点でもあったのかと、フェルナーは緊張の面持ちで上官へ尋ねた。今は目を閉じている遺体だが、検死の際には縊死に見られる眼球結膜の溢血点が確認され、首に残る索状痕にも矛盾がないことから、遺体に添えられていた記述の通りの自死であろうと判断されている。オーベルシュタインは十秒ほど遺体の顔を眺めてから、振り返ることなく口を開いた。
「このような形で葬られることになろうとは、レンネンカンプもさぞ無念であっただろうと、な」
単調で抑揚のない声が、ひどく感傷的な台詞を吐いたことに、フェルナーが目を見開いて上官の横顔を見る。
「はぁ、決して本望ではありますまい」
意図の読めないフェルナーが、当たり障りのない言葉を返した。
フェルナーは知っている。レンネンカンプにヤンの拘禁をそそのかし、失敗すれば切り捨てるがごとき発言をしたのは、目の前にいる上官自身であった。明哲な上官のことであるから、このような結果もいくつかの可能性のうちのひとつとして、疾うに予想していたに違いないのだ。であるにもかかわらず、なぜ今になってこのような発言をするのか、正直なところフェルナーはそれらしい解答を持ち合わせていなかった。
部下の困惑を察したのか、オーベルシュタインがちらりとフェルナーの表情を見やる。
「レンネンカンプは生きていても元帥にはなれぬ男だった。その考えは今でも変わらぬ。だが、皇帝もおっしゃっていたが、このような死に方を強要されるほど無能な男でもなかったと、私も思っている」
考えが硬直しがちで融通の利かない面はあったが、部下には公正で堅実な仕事をする人物であった。実戦でもこの戦乱の世に上級大将にまで登りつめた提督である。無能であればとっくの昔に宇宙の塵に帰していたであろう年齢だった。フェルナーは得心したように肯いた。
「御意と思いますが、閣下には
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ