第百五十話 明智と松永その五
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「あの御仁の本性を」
「慶次、御主が酔狂を好むのはいいとしてじゃ」
今度は川尻が言う。
「しかしじゃ」
「それでもですか」
「あ奴は論外じゃ」
「では茶を共にした時は」
「御主ならやれよう」
慶次の腕、個人の武勇なら織田家随一の彼ならというのだ。
「あ奴をな」
「うむ、やるのじゃ」
平手もこう慶次に言う。
「その時はな」
「あ奴はまさに蠍」
池田もにこりとしていない、そのうえでの言葉だった。
「全く油断が出来ませぬ」
「だからですか」
「慶次、頼めるか」
池田は身を前に出してそのうえで慶次に囁く。
「あ奴と茶を共にした時はな」
「消せというのですか」
「織田家にとって獅子身中の虫じゃ」
まさにそれだからだというのだ。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「そうじゃ、消せ」
池田も本気だ、消せというのだ。
「あ奴が毒を盛ったとか言ってな」
「いや、それは」
「そういえば御主は暗殺はせぬか」
「そういうことは苦手でして」
傾奇者であり常におおっぴらに動く彼は戦の場や喧嘩ならばその剣なり拳なりを振るう、しかし暗殺となると、だというのだ。
「どうにも」
「だからか」
「茶の場では茶だけです」
それを嗜むだけだというのだ。
「それだけですから」
「そうじゃな。御主は忍の術も身に着けておるが」
それでもだとだ、その忍である蜂須賀が言う。
「しかしな」
「それでもどうもそうしたことは」
暗殺ということはというのだ。
「ですから」
「ならよい」
平手も頼む手前強くは言えなかった、それでだった。
慶次にだ、こう言うのだった。
「わしが自らあ奴の首を刎ねてくれるわ」
「いや、それは幾ら何でも」
丹羽がその平手を止める、彼も松永は実に剣呑な者とみなしていて殺そうと思っていてもである。
「無理があります」
「わしが歳だからか」
「はい」
まさにだ、だからだというのだ、
「それはご容赦下さい」
「ううむ、そうなるか」
「何はともあれあ奴は見ておきましょう」
目は離さないというのだ、丹羽にしても。
「そして少しでもです」
「その時はじゃな」
「はい、そうしましょう」
これが丹羽の言葉だった、そして。
その話をしてだ、そうしてであった。
彼等は今は松永を見るだけだった、織田家の殆どの者は彼をまさに害と見ていて何時でも消そうと思っていた、僅かな者だけが彼と付き合いがあった。
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