第百五十話 明智と松永その二
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それでだ、二人は今度はいぶかしんでこうも言うのだった。
「いや、図太いですな」
「だから今も生きられているのでしょうか」
「そうであろうな、図太いわ」
明智も松永をこう評する。
「それも尋常ではない」
「全く以て」
「まるで鋼ですな」
「しかしな」
それでもだとだ、明智は強い目で二人に言った。
「若僅かでもおかしなところがあればな」
「ですな、消しましょう」
「天下の奸賊を」
こう話す彼等だった、明智も二人の腹心も松永を全く信じておらずおかしなところがあればと考えていた、だが。
当の松永はだ、そうした疑いというよりは何かあれば己を殺そうという目の中でも平気だった。それで今も笑って言うのだった。
「ははは、どうもな」
「この進軍中もですな」
「周りは全く信じませぬな」
「殆ど誰もな」
それこそだ、信長と羽柴以外はというのだ。
「わしを信じず」
「命を狙っておりますな」
「ほぼ誰もが」
「そうじゃな、しかしじゃ」
「それでもですな」
「殿は」
「裏切らぬ」
松永は言った。
「それはせぬぞ」
「決してですか」
「織田信長殿は」
「そうじゃ」
「ですがそれは」
「出来ぬのでは」
周りの者達、松永に古くから仕えている者達は怪訝な顔で言う。それはどうしてもだというのだ。
「我等一族が織田信長殿を敵とみなしている以上」
「我等の血の血脈は絶対ですぞ」
「ですからそれは」
「到底」
「わかっておる、しかし」
それでもだとだ、さらに言う松永だった。
「わしは殿が好きなのじゃ」
「忠誠を誓っておられるのですか」
「そう仰いますか」
「うむ」
その通りだとだ、松永は彼等にはっきりとした笑顔で答える。
「わしはあの方を裏切らぬぞ」
「しかし他の家の方々が」
「特に長老がです」
ここでこの名前が出て来た。
「あの方がお許しになりませぬ」
「それだけは」
「一族のう。これまで常に従ってきたな」
松永は今度は思わせぶりな笑みになった、そのうえでの言葉だった。
「わしも」
「それは死ぬまで続きますが」
「血のことは」
「終わらぬか」
「はい、命が終わるまで」
「殿にしても」
「難儀じゃな、ではやがてはか」
前には信長の馬印がある、その下に信長がいることは言うまでもない。
それを見てだ、こう言うのだった。
「あの方を裏切らねばならぬか」
「はい、残念ですが」
「殿といえど」
「三好を裏切り幕府を裏切り」
これまでの己の裏切りのことも言う、遠い目になって。
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