第百五十話 明智と松永その一
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第百五十話 明智と松永
信長は長島のことを収めすぐに近江に向かった、大軍を率いて宇佐山城に向かっているのだ。皆足を急がせている。
その中には松永もいる、多くの者は今も彼を疑っていた。
「朽木殿の件はともかくな」
「うむ、やはりあ奴は信用出来ぬ」
「こうした危うい時にこそ裏切る」
「そういうものだからのう」
彼等はこう話して松永を警戒していた、それでだった。
若し少しでもおかしな動きをすればその場で殺すつもりだった、それは幕府から織田家に入った言うならば新参者の明智もだった。
彼は己に昔から共にいる家臣達に話していた、その中でもすが目の斎藤利三と親族でもある明智秀満、己のよく似た彼にだった。二人は信長の直臣となっているが実質的には明智の補佐役になっているのだ。
その二人にだ、明智は近江に進む中で話したのだ。
「よいか、松永弾正に何かあればな」
「はい、その時はですな」
「容赦なくですな」
「うむ、責はわしが取る」
こう言っての言葉だった。
「だからな」
「すぐにですな」
「少しでもおかしな素振りを見せれば」
「あの御仁だけは信じられぬ」
明智もそう見ていた、松永は危険な男だというのだ。
「こうした一歩間違えるとわからぬ時にこそじゃ」
「裏切る者は裏切りますな」
「まさに」
「だからですか」
「裏切りの素振りを見せれば」
「あの御仁は過去何度も裏切ってきた」
主家である三好家も幕府もだというのだ。
「そして三好家を食い潰し義輝様もな」
「ですな、だからこそ」
「この度は」
「何ならわしもだ」
明智自らだというのだ。
「御主達と共に行きだ」
「蠍の首を刎ねますか」
「そうされますか」
「そうする、あの者だけは別だ」
信じられぬというのだ、どうしても。
「全く信用出来ぬ」
「殿と猿殿だけはそう思われていませぬが」
「それでもですな」
「わしはどうしても信じられぬ」
これが明智の本音だった。
「蠍と言われるだけあってな」
「剣呑なものを感じますか」
「それ故に」
斎藤と秀満も同じだ、このことは。三人共馬で道を進みながらそのうえで剣呑な顔で話している。
「何か少しでもおかしければ」
「躊躇せずに」
「後ろから斬ることはせぬ」
それはだというのだ、明智はここで卑怯にはなれなかった。
だが、だ。それでもなのだ。
「信じられぬからな」
「ではそれがし達が」
「常にあの者を見張っています」
二人がすぐに応える、明智は二人にこうも言った。
「しかし」
「しかし?」
「しかしとは」
「あの御仁を見張っているのは御主達だけではない」
無論今語る明智自身もだ、それにだった。
「織田家の殆どの者がな
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