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八条学園怪異譚
第五十二話 商業科の屋上その八

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「確かに苦労はしているだろうが」
「別に育児放棄とかじゃないんですか」
「あと失業とか」
「そういうのじゃないんですね」
「ブラック企業とかじゃ」
「全く違う」
 またこう答える日下部だった。
「だから何故そう生々しい」
「だって、世の中ですから」
「どうしても」
「君達は精神的に他の女子高生達より大人だがそれは悪い面もあるな」
 愛実の母親気質、聖花の姉気質も時にはというのだ。
「そうした人生相談の様なことまで知っているとは」
「商店街ですからね」
「そうしたお話多いですから」
 それでだと返す二人だった。
「よく聞きます」
「お客さんでも商店街の中でも」
「特に育児関係多いですよ」
「それと旦那さんのことが」
「そうか、しかしだ」
 それでもだとだ、日下部は苦い顔で述べた。
「そうした話ではないからな」
「そうなんですか」
「それじゃあ何故ここに」
「確かに疲れているがそれは心地よい疲れだ」
 そうしたものだというのだ。
「それで昔をいい意味で懐かしんでだ」
「それで、なんですか」
「こっちに来られているんですか」
「そうだ、ついでに言えば彼女はイタリア人だ」
「あっ、イタリア人ですか」
「そうなんですか」
「そうだ、ミレッラ=スキーニという」
 それが彼女の名前だというのだ。
「今は日本にいる」
「イタリアからの留学生ですね」
「そうなんですね」
「そうなる」
 まさにそうだというのだ。
「その彼女がだ」
「生霊になられてですね」
「屋上におられるんですね」
「そうだ、悪い人ではない」
 日下部は二人にこのことも保障した。
「多少独特の性格ではあるがな」
「いや、もう青木先輩でそういう人は慣れてますから」
「あと前にお会いした琴吹さんも」
 二人は彼女達を挙げて日下部に返す。
「そのことを考えますと」
「もう多少の人だと」
「そうか、なら問題はない」
 そう聞いてだ、こう返した日下部だった。
「人には多く会うべきだ」
「そうすればどんな人と会ってもですね」
「驚くことがないんですね」
「会えば会う程自分の器も大きくなる」
 人間としてのキャパシティーが拡がっていくというのだ、もっともこれは人それぞれでありそうならない者もいる。
「それは幽霊も同じだ」
「幽霊さんは魂だからですね」
「身体がないだけですから」
「そうだ、幽霊はただそれだけだ」
 魂が身体から出ただけである、これは仏教の考えだ。
「人間なのだ」
「よく怨霊とか聞きますけれど」
「その怨霊もですね」
「人間だ」
 そうなるのだ、仏教の考えでは。日下部は二人にこのことも話すのだった。
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