第一章
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でわかった。俺はそれに応えながらカウンターの席に座った。
「コーヒーくれないか。ブラックでな」
「わかりました」
赤い髪の娘はそれに頷くと暗い店の中でコーヒーを入れはじめた。そして俺の前にブラックを出してくれた。
飲んでみる。意外と美味かった。あのマスターの味そのままだった。
「美味いね、これ」
「有り難うございます」
俺に褒められたのが嬉しかったらしい。女の子はにこやかに笑って応えてきた。
「マスターに教えてもらったんですよ、色々」
「へえ」
「コーヒーの入れ方もお菓子の作り方も。それでお店を任されてるんですけれど」
「どうだい、調子は」
「よくないです。何かマスター自身に人気があったお店らしくて」
「だろうね」
俺はその言葉に頷いた。ここのマスターはいい人だった。俺みたいな札付きの不良が店に来ても温かい顔で迎えてくれた程だった。ここに来たのはそのマスターに会いにきたのもその理由の一つだった。
だがそのマスターはいなかった。それだけでこの店に来た理由が半分意味がなくなったがそれでもそのマスターのコーヒーは飲めた。それだけでも満足することにした。
「ここのマスターのコーヒーはいいでしょ」
「ええ。私もここで飲んでバイトはじめたんです」
女の子はまた応えた。
「あんまり美味しかったから。それで今は留守まで預かって。けれど」
「大丈夫だよ」
これは本音だった。
「これだけのコーヒーが出せるんだから。店は潰れないよ」
「そうでしょうか」
「安心していいよ。この店の売りはマスターだけじゃないから」
俺は言った。
「このコーヒーだってそうなんだ。それが出せたら心配はいらないさ」
「わかりました。それじゃ」
「もう一杯おかわり」
「はい」
俺はもう一杯注文した。女の子がそれを受けてコーヒーを作っている間に店の中を見回した。寂れてはいるがあの時のままだった。そしてカウンターの奥を見た。俺はその店の中であるものを探していた。
それはあった。一枚の写真だった。マスターはまだとって置いてくれていた。
「お待たせしました」
女の子はお代わりのコーヒーを出してくれた。俺はその娘にコーヒーの他にもう一つ注文することにした。
「あの」
「はい」
「そこにある写真とってくれないかな」
「写真?」
「ほら、そこにあるよね」
俺は写真の方を指差して言った。
「えっと」
「そこにある写真。悪いけどこっちに持ってきて」
「わかりました。それじゃ」
女の子は素直にその写真を持って来てくれた。見ればうっすらと埃がかかっていた。それを見て本当にもう昔のことなんだと思わずにいられなかった。
指でその埃を拭う。するとそこにはあの時の俺がいた。何かやけに上機嫌に笑っていた。
俺だけじゃなか
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