Episode21:Project of color
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させられていただけの雫だったが、その精神には多大なストレスがかかっていたようだ。
触れている部分から、隼人の体温と心音が伝わってくる。その穏やかなまどろみに意識を委ねようとして、薄れた視界に、唐突に、黒い記憶が蘇った。
「っ!?」
それは、雫のトラウマとなっている記憶。幼い頃に刻み込まれた、恐怖の記録。
何故か、今それを思い出して雫は身を固くした。まどろみに落ちていきそうだった意識は今は完全に覚醒してしまっている。トラウマによる恐怖が、雫の体を震わせた。
「雫」
怖い、そう思ったとき、穏やかな声が雫の耳に届いた。そして、彼女を抱く手に少し力が篭る。
「俺がついてるよ」
抱き締められて、彼のゆっくりとした心音が聞こえてきた。トクン、トクンと穏やかなリズムを刻むのを聞いている内に、恐怖で震える体が落ち着いて行くのを感じた。
隼人は、恐らく雫のトラウマを知らないだろう。彼女が震えているのは、今回の事件を思い出して怖くなったと思っているに違いない。
けど、「俺がついてるよ」という言葉は、暗く沈みそうになっていた雫の気持ちを支えた。
勘違いだけど、結果的に慰める形になる。それが、隼人を『天然タラシ』と言わしめる由来の一つであった。
「おやすみ、雫」
すっかり安心したのか、眠ってしまった雫に、隼人は小さく囁きかけた。
「じゃあ、ほのかは俺たちが責任持って家に連れ帰るから、隼人は雫を頼む」
「うん任せて。それじゃ、お疲れ様、達也、深雪さん」
そう言って隼人は茂みに停めていた電動二輪に跨った。そのタンデムシートに眠っている雫を乗せて、落ちないように硬化魔法でバイクと雫の相対位置を固定する。
見送る達也たちに手を振って、隼人は来た道を戻っていった。
「オリジン…完成体、か」
「お兄様?」
隼人が消えていったほうを見つめて小さく呟いた達也に深雪はよく聞き取れなかったのか首を傾げた。
「いや、なんでもないよ。さあ、早く帰ろう」
達也がなにかを悩んでいることに深雪は鋭く気づいた。だが、達也ならば時が来れば自分にも教えてくれるのだろうと判断して、深雪は追求するのを諦めた。その代わりに、笑みを浮かべる。
「はい、お兄様」
深夜を過ぎた東京郊外の空は、灰色の雲に覆われていた。
ーーto be continuedーー
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