子どもでいて欲しいと願うのは俺のエゴです。
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「うーん……まぁ結城にとってはそうかもしれないな。 でも、結城が一番将来のために努力してるのは分かってるつもりだよ」
「は?」
結城の表情から笑みが薄くなる。
お、何か効果有り?
精一杯の笑顔で、言葉を続けた。
「親御さんに聞いたけど、医者になりたいんだって? 素晴らしい夢じゃないか。 それに、結城の手のペンだこを見れば、毎日どれ程頑張ってるか少しは分かるつもり――」
「――あ?」
ダンッ
不意に肩を掴まれ壁に叩きつけられた。
「っ!?」
至近距離で結城と目が合う。
苛立ちを含んだ強い視線に一瞬息が止まった。
つい視線を外し泳がせると、逃げていく他の生徒が目に入る。
今まで俺達に遭遇した生徒は壁ギリギリを通って早足で歩き去っていたが、とうとう回れ右をして別の階から下駄箱に行くようだ。
なんて、現実逃避してる場合じゃなかった!
もし他の先生に見つかったら、最悪警察沙汰になってしまう。
肩を掴む結城の手をぽんぽんっと軽く叩いてゆっくり声をかけた。
「結城?」
「……椎名先生の、見透かして、垣間見た一面だけで全部分かったような気になって、所詮は子どもと見下すその上から目線、すげームカツク」
「そんな、つもりはっ……」
肩を掴む力が強くなり、思わず顔が歪む。
「ぐっ……結城――」
結城の目を真っ直ぐ見返した。
きっと、今目線を外せば信頼を失うだろう。
「――見下すつもりは、毛程も無いが……お前らはまだ子どもだよ……子どもであって欲しいと思ってる――子どもでいられ無い子どもは、――不幸だ」
結城がふと眉を顰め、手の力が緩む。
その時だった。
「おーーーい! ヒーローーー!!」
遠くから響く大声に、結城の表情から全ての感情が消え去った。
「一緒に帰ろーぜーー!」
結城が俯きブルブルと震え始めた。 声のほうを見遣れば、松浦が満面の笑みでブンブンと手を振りながら駆け寄ってくる。
が、俺と目があった瞬間、片手でシッシッと追い払う素振りをされた。
逃げろということだろう。
「ハルト……貴様――下の名前で呼ぶなと何度言えば分かるんだーーー!!」
俯いたままゆらりと俺から離れた結城は、青筋を浮かべた鬼の形相で松浦の方へ全力疾走して行った。
「ちょ、そんな怒んなくってもっ……いいじゃんかぁああ! かっこいいじゃーーーん!」
松浦も急ブレーキをかけて全力疾走で叫びながら逃げていく。
二人とも足が速いから事故にならないか心配だが、この時ばかりは呼び止める気になれなかった。
松浦春杜……学校のタブーとなりつつある結城の下の名前を執拗に呼ぼうとし続ける勇者であり、彼の親友である。
ありがとう、松浦――お前の犠牲は忘れ
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