第5章 契約
第81話 王都入城
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そんな縁起でもない事を思い出して、少し頭を振り嫌な予感を追い払う俺。
現在は主だった貴族の祝辞も終わり、会場の一番奥の一段高い場所に設えられた三つの席。つまり、玉座とそれに付け足されたふたつの席から逃げ出して、回廊の隅に立つ俺たち一行。
もっとも、自ら専用の椅子に腰を下ろし、膝の上に広げた和漢に因り綴られた書物に、メガネ越しの視線を上下させている少女がふたり、存在するのですが。
少し疲れた……。体力的には問題ないけど、精神的にかなり疲れた俺が、夢幻の世界。ヨーロッパの貴族社会をモチーフにした華麗な社交界が登場する物語の中でしか経験出来ない舞踏会の夜を、ぼんやりと見つめるだけの状態。
正直に言うとヴェルサルティル宮殿の離宮のひとつ。グラン・トリアノン宮殿の方に用意された俺たちの部屋に撤退したいのですが、流石にそう言う訳にも行かず……。
「この祝宴の主賓がこんな場所で何を為さっているのです?」
優雅にダンスに興じる貴族たちを瞳に映しながら、実は何も考えて居なかった俺に話し掛けて来る若い男性の声。
そう言えば、コイツの顔を見るのも太歳星君と戦った事件以来ですか。
「どうにも、創られた偶像役と言うのは、傍目に見るほどには心地良い物でもなかった見たいやな」
最初にそう答える俺。それに、目の前に現れる人間すべてが、口々に俺の事を持ち上げて居たら、居心地が悪くなって当然でしょう。
現実には俺ではなく、創られた偶像を褒め称えているのですから。
「それに、俺はダンスが苦手でな」
着飾ったよそ行きの言葉で相対する必要がないと判断して、更にそう続ける俺。
話し掛けて来た相手。この大勢のガリア貴族が集まっている鏡の間の中でも、独特の存在感を放つ人物。
サヴォワ伯長子ジョルジュ・ド・モーリエンヌ。今日……今宵は、父親のサヴォワ伯爵の名代としてこのガリア王子ルイのヴェルサルティル宮殿入りの祝宴に登場した、と言う事らしいのですが。
もっとも、コイツはガリア北花壇騎士団所属の騎士らしいですから、むしろ、俺やタバサの護衛役と言う任務をイザベラより与えられて居ると考えた方がすっきりしますか。
「正に、ガリア王家の威勢を国内の貴族に知らしめる祝宴の儀と成りましたね、王太子殿下」
人工の光と、その反射光が産み出す明るい室内の中心で、その光が一番似合い、そして、ある意味一番似合わない種族の青年が尋ねて来る。
そう。このシャンデリアの放つ光は魔法に因って生み出された光でもなければ、ろうそくの炎の明かりと言う訳でもない。
これは蛍光灯の明かり。
そして、俺たちの会話の間もずっと流れ続けて居る音楽は、優雅なバロックの調べなどではなく、ショパンの調べ。
本来、この時
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