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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第81話 王都入城
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してはケタが違います。
 ただ、ここは飽くまでも行政府。軍事的な拠点と言う意味合いは薄く、中世ヨーロッパの堅固な城を思わせるトリステインの魔法学院や、トリステインの王城とはまったく違うデザイン。
 近代……とは言いませんが、少なくとも地球世界で近世の設計思想に因り建てられた建物、……と言うべき白亜の宮殿でしょうか。

 左右に羽を広げた白鳥の如き建物から延びる赤い絨毯の横に、定規を引いたようにきっちりと停まる王室専用の馬車。
 その瞬間、周囲から発せられていた歓声が止む。

 そして……。

 外側から音もなく開かれる扉。その時、吹き込んで来た冷たい風が、ここが十二月のガリア(フランス)で有る、……と言う事を実感させ、そして、その場に集まった人々の息を呑む音が、これから始まるセレモニーの重要さを改めて思い知らされる。
 もっとも小市民的俺の思考は、この場から逃げ出したいとしか考えられない状況なのですが。

 周囲から見やすい形で馬車から顔を出し、普通の乗用車と比べると高い位置に有る扉から、しなやかに赤い絨毯の上に降り立つ俺。
 そして、その場から半歩左に寄って後ろを振り向き、馬車の中に向かって右手を差し出す。

 その俺の右手に、シルクの長手袋をした小さな手がそっと添えられる。

 普段なら軽快な身の熟しですっと降り立つ彼女が、俺の右手のリードに従い、今日は緩やかな身の熟しで優雅に俺の右隣へと降り立つ。
 その瞬間、周囲を取り巻く民衆から、何とも言えない気が発せられた。

 但し、これは悪意を含んだ物ではない。かなり好意的な雰囲気。
 将来、華燭の典(かしょくのてん)を挙げ、生涯を共にする事が決まっているふたりが、仲睦まじい様子で同じ馬車から姿を現したのですから、こんな好意的な雰囲気に包まれたとしても不思議ではないと思いますけどね。

 その時、上空より降り注いでいた冬の陽光に、小さな影が差した。
 その影に気付いた人々が蒼穹を見上げる。すると、其処には……。

 遙か彼方まで見通せるような蒼の世界に悠然と飛ぶ大型の鳥の姿。ゆっくりと宙を舞う様は美しいとさえ言える。
 しかし!

 刹那、そのゆっくりと上空を舞って居た鷹と思しき鳥が急降下を開始する。
 そう、その様は、正に獲物を見つけた時の猛禽類のそれ。一気に急降下を果たし、その目的の場所に爪を立て――

 その急降下を確認した俺が、こちらはゆっくりと。まるで、王の如き優雅な動きで左手の拳を蒼穹に掲げた。
 俺の周囲を護るマジャール侯護衛騎士団の騎士たちの間に戦慄が走る。もし、ここでガリア王子ルイの身に傷を付けた場合は、自らの主マジャール侯爵の顔に泥を塗る結果と成るから。
 そして、この時、ヴェルサルティル宮殿前の噴水広場に集まった民衆
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