第39話 デートinシャルモン
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貴虎は妹を連れて“シャルモン”を訪れていた。
正面の席には、笑顔で、行儀作法は周囲の客負けに守って、フォンダンショコラを食べ進める碧沙。
「ほんとにおいしい……ココのケーキ、一度食べてみたかったの。うれしい。兄さん、大好き」
「――」
貴虎は答えずコーヒーに口をつける。――満更でもなかったからだとは、決して認めないのが呉島貴虎である。
――今回、一応は仕事にカテゴライズされる場面に妹を連れてきたのは、妹がヘルヘイムについて多くのことを知ってしまったからだ(これについてはベースキャンプの案内を許可した凌馬を、戦極ドライバー片手に脅しておいた)。
本来なら先に社会人になった光実に真実を教え、さらに後、全て終わった後に碧沙に顛末を語る予定だったのに。
今までのように知らぬ存ぜぬを通せないほどに碧沙は秘密を見てしまった。さらに。
“貴兄さんが教えてくれないなら、また自分で“森”へ調べに行くわ”
……教えないことで妹を危険に曝すくらいなら、もうこの「仕事」についてはオープンで行こう、と貴虎はその時、腹を括ったのだ。
そして、遠くない内に光実にも話そう、とも考えた。
「今度は光兄さんも一緒に、3人で来ましょうよ」
碧沙の誘いに、貴虎はそれが叶った時のことを想像してみた。
光実と碧沙を正面にして、“シャルモン”のケーキを「おいしい」と言い笑い合う弟妹を眺めつつ、自分はコーヒーを楽しむ――
「――そうだな。悪くない」
そんなありふれた兄妹団欒のためにも、余情はここで断ち切って、すべきことをしなければならない。
全てはより良い未来のため。その未来に生きる弟と妹のためだ。
貴虎は従業員を呼び止め、ケーキを作ったパティシエ――今日ここに来た目的の人物を呼び出させた。
「お待たせいたしました。ワテクシがここのチーフパティシエですの。お味のほうはいかがでした?」
「さすがはルレ・デ・セーレに籍を置く菓子職人。見事なお手前だ」
ヘルヘイムであったこの男に関する諸々の不快は心の奥底に沈め、ポーカーフェイスで美辞麗句を並べる。
「ホホホ。光栄ですわ」
「だが今日はパティシエではなく、歴戦の傭兵としての貴方に話を聞いていただきたい。凰蓮・ピエール・アルフォンゾ軍曹」
貴虎はテーブルに名刺を置いて凰蓮に差し出した。凰蓮の、貴虎を見る目が鋭いものに変わった。歴戦の傭兵、という下調べの内容は真実だったらしい。
「――Pardon?」
ぱく。碧沙がちょうどケーキの最後の一口を食べ終えた。
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