六幕 張子のトリコロジー
13幕
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ょとんとふり返ったフェイの周りから、雷が消えた。
ルドガーは改めてユリウスに向き直った。
「兄さん。今の俺はエージェントだ。ずっと憧れてたユリウスと、同じ仕事だ。ユリウスと俺の立場が逆でも、ユリウスはエージェントとしてこの判断をすると思う。それが俺の知ってるユリウスだ。だから俺もそうした。……俺みたいな半人前じゃ、そうする以外に思いつかなかった」
驚きに染まっていたユリウスの面が、ふっと自嘲に切り替わった。ユリウスはひどく疲れた様子だった。
「お前に恥ずかしくないよう、理想の兄でいようとしたのが裏目に出たな……」
ノーマルエージェントが両脇からユリウスに警杖を突きつける。ユリウスの手に黒匣(ジン)製の手枷が嵌められ、連行されていく。自分で選んだ結果とはいえ、直視に堪えなかった。
「ダイジョウブ? ルドガー、イタイ顔」
フェイが腕に縋ってルドガーを見上げてくる。ルドガーはとっさに笑顔を作った。
「平気だよ」
「じゃあ、セツナイの?」
「切ない? 俺が?」
「レイアが言った。どこもケガしてなくても、ココがツラくなるの、セツナイって言うんだって。セツナイはイタくないけど、レイアの『セツナイ』見てて、なんかイヤだったの。だからルドガーもそうだったらどうしようって……」
ルドガーは今度、本心から笑んだ。8歳のエルよりフェイのほうが何倍も幼く、物を知らない。
世間知らず、箱入り娘、と片付けるのは簡単だ。だが、ルドガーはそうしたくない。この子は感性を表現する術を教えられなかっただけだ。きっと語彙や表情が増えれば、歳相応の内面に育つ。
(って、これじゃ本当に俺がこの子の父親みたいじゃないか)
フェイは小首を傾げてルドガーを見上げてくる。
(まあ、それも悪くないか)
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