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久遠の神話
第七十二話 愛の女神の帯その十三
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「だからそうしていいか?」
「好きにしろ」
 これが広瀬の彼への返事だった。
「あんたのな」
「そうか、それじゃあな」
「勝手に見ていろ」 
 広瀬はまた中田に告げた。
「あんたの気が済む様にな」
「そうさせてもらうな、今から」
「あんたももの好きだな」
「昔から言われてるよ」
 中田は笑って彼に返した。
「本当にな」
「そうか」
「それじゃあ行こうな」
 中田の方から広瀬を誘う、そして。
 彼等は二人で森の前に来た、そこにはもう聡美がいた。彼女の左右には智子と豊香もいる。
 その聡美がだ、広瀬に真剣な面持ちで告げてきた。後ろに森を背負う様にして。
「それでは」
「森の中に入ってか」
「闘って下さい」
 コウ中田に告げる、聡美の後ろの森は夜の闇の中で漆黒の姿を見せている。そしてその森の上の月は白銀の三日月だった。
 広瀬はその三日月も見た、そのうえで言うことは。
「いい月だな」
「月ですか」
「ああ、綺麗だな」
 こう言ったのである。
「あんたの司るものか」
「そうです、ですが今の月は」
「光は弱いな」
 三日月だ、満月ではない。
 それでだ、その三日月を見てこうも言ったのである。
「灯りにはならないな」
「森の中に入ってもですね」
「それがネックになるか、いや」
「いや、ですね」
「自分で光を出せばいいだけだ」
 月の灯りが頼りになれないならだ、それならばだというのだ。
「その分な」
「申し訳ないですが月の満ち欠けを変えることは」
「出来てもだな」
「これは貴方だけのことではないので」
 この世にいる全ての人間についてのことだ、だからだった。
「ですから」
「別にいい、俺一人のことは俺一人でどうにでもなる」
「だからですか」
「気にしないでくれ、それではな」
「はい、勝って帰って下さい」
 聡美は広瀬に告げた。
「森の中に入られて」
「そうさせてもらう。帰ったらだ」
「その時は」
「俺とあの娘の二人でだ」
 彼女には剣士のことは言えない、だがそれでもだというのだ。
「祝う、そうする」
「そうされますか」
「戦いは降りる」
 これは絶対のことだった。
「このことは約束する」
「願いが適うからこそ」
「ではな」
 ここまで話してだった、そうして。
 広瀬は森に一歩踏み出した、中田はその彼と暗い森の二つを見てそのうえで彼の背中を見て言ったのだった。
「見えにくいけれどな」
「安心しろ、木と木の間からだ」
「見えるか」
「光はある」
 広瀬は振り向かなかった、中田に背中越しに告げた。
「だからだ」
「そうだったな、あんたはな」
「だからよく見ておくことだ」
 それもだというのだ。
「俺の最後の戦いをな」
「願いを適える為
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