第七十二話 愛の女神の帯その十二
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「貴方達を神話の頃から戦わせているのです」
「力を手に入れる為にか」
「あの方と共に。永遠にいたいと想うが故に」
「悲しいな、それもまた」
「悲しいですか」
「気持ちはわかる、俺もあの娘と一緒に永遠にいたい」
由乃の笑顔を思い浮かべながらだ、広瀬は聡美に言った。
「だからな」
「お姉様のことがですか」
「わかる」
そうだというのだ。
「よくな」
「そうですか」
「戦わされる方は気分がよくないがな」
だが、だ。それでもだというのだ。
「しかしそれでもだ」
「お姉様のことをわかって頂けますか」
「そのつもりだ、それではだ」
「今夜ですね」
「森に行く」
農学部のところにあるそこにだというのだ。
「そして勝つ」
「では」
「それまでは休んでおくか」
そうして英気を養うというのだ。
「そうしておくか」
「それがいいと思います」
聡美もそれでいいと答える。
「これが最後になりますから」
「じゃあな」
「はい」
二人はまた別れた、そしてその夜だった。
広瀬はよくに大学の農学部に一人で向かった、だがだった。
その途中で彼に会った、大学の正門の前に中田がいたのだ。
その中田を見てだ、広瀬は彼に言った。
「覗きか」
「おい、何でそうなるんだよ」
「女子寮に忍び込んで入浴を覗くつもりだな」
「おいおい、俺にそんな趣味なねえよ」
中田は笑って広瀬の突っ込みに返した。
「女の子は嫌いじゃないけれどな」
「それでもか」
「そうした趣味はねえよ」
そうだというのだ。
「だからな」
「それでか」
「ああ、そうだよ」
こう広瀬に言う。
「覗きはしないさ、絶対にな」
「では何故ここにいる」
「さっきまで闘ってたんだよ」
「それでか」
「ああ、今さっきまで闘ってな」
後ろを右の親指で背中越しに指し示した、そこには法学部の校舎がある。
「あの中でな」
「そうだったのか」
「ライオンと闘ったんだよ」
「成程な、それでここにいるのか」
「ああ、それであんたもだな」
「今からだ」
広瀬はその中田を見て言うのだった。
「はじめる」
「そうか、じゃあな」
「今度は何だ」
「俺が見ていいか」
こうだ、彼等はここでまた言ったのだった。
「あんたの最後の闘いをな」
「どういう風の吹き回しだ」
「見届けたくなったんだよ、あんたの門出を」
口と目を笑わせてだ、中田は言ったのである。
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