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久遠の神話
第七十二話 愛の女神の帯その十一

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「そこにいらして下さい」
「農学部の近くのか」
「はい、そこにです」
 まさにだ、そこにだというのだ。
「そしてそこで、です」
「怪物と戦ってか」
「貴方は願いを適えられます」
 その時にだというのだ。
「ですから是非共来られて」
「勝って欲しいか」
「そうされて下さい」
「無論そうさせてもらう」
 広瀬も最初からそのつもりだ、そしてだった。
 聡美にだ、あえてこうも言ってみせたのだった。
「しかしだ」
「しかしとは」
「貴女達は俺達を倒すことを出来るな」
「剣士の人達をですか」
「そして俺達の敗北もだ」
 それもまた然りだというのだ。
「そうなってもいいな」
「剣士の人達が戦いから降りるということはですね」
「そうだ、いい筈だな」
「その通りです」
 聡美もそのことは否定せずに答えた。
「そのことは」
「そうだな、俺達がいなくなればいいな」
「極論すればそうです」
「しかし貴女達はそれをしない」
 聡美にしても智子達にしてもだ。
「俺達を消すことも敗北を望むこともな」
「そうしたことはとても」
「出来ないし考えないか」
「私達は貴方達のことをわかっているつもりです」
 広瀬の目を見てだ、聡美は言った。
「確かに神話の頃の貴方達は罪を犯しました」
「古代ギリシアにおいてはか」
「同じ魂です。ですが」
「今の俺達はあの頃の俺達とは違うか」
「魂は同じでも人格は違うのです」
 この二つはだ、別物だというのだ。
「貴方達の人格は違います、そして」
「俺達自身はか」
「悪い方ではありません、ですから」
「悪人は消さないか」
「私達はそうした神です」
 三人共だ、そうだというのだ。
「ですから」
「それでか」
「アテナ姉様もペルセポネーもです」
 智子も豊香もだというのだ、二人共。
「私達は悪神ではないつもりですから」
「だから俺達に勝利のうえで戦いを降りて欲しいのか」
「願いを適えられたうえで」
 そしてだというのだ。
「そう考えています」
「そうか」
「はい、そして」
「そしてか」
「セレネー姉様もなのです」
 沈痛な顔でだ、聡美は広瀬達を戦わせている他ならぬ彼女のことも語ったのだった。その広瀬に対して。
「決して悪神ではないのです」
「そうみたいだな」
「とてもお優しい方なのです」
 こう広瀬に言うのだった、その沈痛な顔で。
「誰よりも」
「しかしか」
「想いが強過ぎるが故に」
 そのせいでだというのだ。
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