第23話「山な恋」
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彼にとって至高の時間なのだろう。穏やかな顔で、どこか嬉しそうに釣り糸を垂らしている。
どれほどそうしていただろうか。
――好きだぁぁあ!
「……っ」
自身が街中で一人の女性徒に大声で叫んだ言葉だ。
――またか。
これまでにもフと気の抜いた瞬間に何度もコレを思い出していた。それでもやはり慣れはまだ来ないらしい。
顔が火照っていることを感じる。
最近は変な夢まで見るようになって、本気で意識し始めてしまっている。今までは休日だったので顔合わせは回避できていたが、気付けばまた明日から学校。
顔を合わせた瞬間には真っ赤になっていそうな自分がいて、内心どうしようかと困っているのだ。
「……」
視界を空に移し、鳥が何羽も連なって羽ばたいている姿に何かを思い出したのか「あ」と呟いて、面倒そうに頭を掻きだした。
「……跳躍力の確認を忘れていた」
完全なグウタラモードになっていたせいで本気で嫌そうに顔を顰めている。
「……くそ」
悩むこと数十秒。
実際の跳躍力と自分のイメージの誤差が僅かにでもあっては、それこそが死に直結することだってありうる。
結局、背に腹は変えられぬ、といったところだろう。
ダラダラと立ち上がり、身構える。
「……」
ガンツスーツが脚部の筋力に反応して、肥大化する。
「ふっ!」
独特な吐息と共に一瞬で前方の上空に飛び上がった。視界が一気に広がり、先ほどまで目の前で広がっていた緑が眼下に大きな広がりを見せる。
十M以上もの高さにまで到達していた彼の側を小さな鳥の群れが通り過ぎる。ほんの僅かな滞空時間がタケルを包み、その間に己の体勢から高さ、距離、角度……様々な要素に目を配る。
――誤差は……ないな。
「よし」と呟き、そのまま重力やら何やらの力に引かれて地面に降下する。もちろん、前方に大きく飛び上がったので、元の場所に着地などできない。一度降りてから再度、同じように飛び上がって元の場所に戻る算段だ。
――あれがいいな。
着地場所は綺麗な断面を見せている大きな岩。
何やら人間のような影が見えるが、おそらくは気のせいだろう。こんな山奥に人が一人でいるなど考えにくい。
目を閉じ、体の感覚に身を任せる。
こうやって着地に成功すれば、これで晴れて今日をダラダラと過ごすことが可能となる。
着地に失敗してもスーツがあるのだから怪我はないだろうが、それでも心配なってしまう。
気張ることもなく、ただ体を自由落下に委ねる。徐々に地面との距離が狭まっていく。そしてそのまま地面にぶつかるだろう瞬間。
「今」
体勢を整え、足に力
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