第23話「山な恋」
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裸の自分を気にもせず、一分の隙も出さないで蒸気を見つめる。
そして、一人の男が姿を現し――
その顔はお互いに見知った顔で。
「「――は?」」
2人の声が重なった。
滝が流れていた。
水が水を打ち続ける大きな音が絶えず響きわたる。少し距離を置いても聞こえてくるその大きな音は、決して不快さを感じさせず、むしろずっと耳を傾けていたくなる程に聞く者を吸い込んでいく。
水しぶきがより細やかに舞い上がり、頬を濡らす。そのせいだろう、ひんやりとした空気が一帯にまで広がり、まるでそこだけ切り取られた別空間であるかのような錯覚に陥る。
辺りに広がるのは当然のように生え並ぶ木々。踏みしめる岩や大地が、生い茂る緑をより和やかに目を彩る。
自然の調和を感じさせるような場所で一人の黒い服の男がいた。黒の学生服で身を包み、大きな岩に立ち、滝を眼前に居合のような構えで佇んでいる。
「……ふっ」
小さく息を吐き、その腕を一閃。握り締められた黒塗りの刃が波紋を引き起こす。乱暴だが確かに大きな力で振りぬかれたその黒き刃は滝を一時的に両断。
0,1秒ほどその流れを叩き割った。
すぐさま流れ出した滝が大きな音を打ち始めると同時、彼は流れるような動きで次の動作に入っていた。黒い刀をホルダーにしまい、手に取ったのはハンドサイズの黒い銃のような武器。
流れ来る大量の小さな木片に狙いをつけ、トリガーを引き絞った。
「……」
狙われた木片は何の変化も見せず、そのまま川に流されていく。
と、思いきや。
数秒。
既に彼の背後にまで流されていた木片が川の中で、大きな水しぶきをあげて粉みじんに砕け散った。まるで爆発でもしたかのようなソレはトリガーを引き絞った数だけ起こり、狙われた木片を全て粉々に砕いていた。
「……ふう」
それらを見届けたタケルは小さな息を吐き出した。
武器をホルダーの中にしまいこみ、足場にしていた岩に座り込む。
タケルは前日にできなかった調整を行っていた。
海帰りということもあってまだ体が少しだるいが、ソレぐらいの体調のほうが自分の出来不出来を過信しないですむ。
敵と自分、彼我の戦力差を過不足なくありのままに捉える。
それが重要なのだ。
一通りの調整を終えたのか、タケルは持参していたバッグから一本の竿を取り出した。釣りでも始めるのか、と思いきやそのまま餌もつけずに川の中に糸をたらした。
「……」
当然だが、釣りを楽しんでいるわけではない。単なる山中での自然鑑賞といったところだろう。
時刻は気付けば昼下がり。適当に自作した握り飯を食べつつ、ボケーッとただ佇む。
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