『"Cannibal Candy"』
#2
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……分からん」
完全に迷った。学院の敷地は、クロスが予想した物よりもはるかに広大だった。行けども行けども、問題の工房が見えてこない。
「くそっ……一度でも行けば……探知の術でたどり着けるんだが……」
地図をにらむが、工房の所在地である場所がどこなのか、さっぱり理解ができない。そう、クロスは、地理音痴である。秀才・天才である彼の、数少ない弱点といえた。ライシンには否定したものの、実は先ほど教員室に行くのも大分手間取ったのだ。
《彼》の《本》の中には、地理探知をする術があったはずなのだが、対象に含めることができるのは『一度訪れた場所』だけである。クロスはまだ一度も自らの工房に赴いていない。探知することは不可能だ。
「だめだ。全く分からん」
いつの間にか、よくわからない森の奥にやってきてしまっていた。太陽は沈み始め、空もオレンジ色に染まっている。
「はぁ……今はどのあたりなんだ……?」
いくらクロスが方向音痴でも、今どこにいるのかくらいは確認することができる。あたりを見回すと、白い建造物が一つ目についた。たぶん研究室か何かだろう。となると……
「今はこのあたりか」
地図上の位置を確認する。
「ちょうどいい。詳しい場所を教えてもらうとするか……」
白亜の建造物に向かって歩いていく。色付硝子の装飾が施されたドアの、金色の取っ手に手をかけ、引こうとした瞬間――――
建造物の内部からドアが勢いよく開かれ、クロスは後ろに大きく弾き飛ばされた。
「ちょっと、邪魔よ!」
「す、すまない……」
苛立ちを隠せない声がふってくる。
壁に打ち付けた背中をさすり、反射的に謝りながらドアの方に向き直ると、そこには不機嫌そうな顔で、金髪の少女が一人、立っていた。
美しい少女だった。年のころはクロスと同じくらい、つまり17か18だろう。恐らく二回生。女子生徒用の制服を身にまとっている。両手には黒い長手袋……つまり、称号持ち。《夜会》参加資格を持つ、上位百名の一人という事だ。
そして何より、クロスの眼を引いたのは、少女の肩に泊る、銀色の子龍だった。自動人形……そして、クロスはその自動人形と同型の人形を知っていた。無意識のうちに呟く。
「《魔剣》……」
「……っ!」
少女が息をのむ。どうやら《魔剣》の魔術回路名をクロスが知っていたことに驚いたようだ。
「私のことを知っているのか」
子龍が喋る。喋る自動人形は珍しくはない。クロスは正直に答える。
「ああ。正確には、亜種を知っていると言った方がいいのだろうが……っと」
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