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第三十五話 居場所
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と戻りそのままラウラは力なく倒れる……が、それをすぐ近くにいた簪が支える。
『ラウラ!』
『……大丈夫、気を失っているだけです、先ほどの状態になった根源は絶ちまし……た』
短時間で起こった多くの出来事に、精神的な負荷が大きかったのか紫苑もその場でフラつく。
それを同じく近くで立っていた一夏が支える。
『危ないっ』
『あ、ありがとうございます』
『あ〜、試合って続いてるんですよね……ラウラがこんな状態なんで俺たちが棄権します』
簪が絶えず会場内を砂煙で覆っていた甲斐があって、観客席にいる人間で何が起こったかを正確に把握している者は少ない。もともとVTシステム自体が知るものが少ない技術であるのが幸いした。
『わかりました……これから彼女のこと、しっかり支えてあげてくださいね』
『はい! ……って、ん、支える?』
流れで思わず返事をしたものの、紫苑の言葉の意味がよく理解できずに考え込む一夏。それと同時にその言葉によって何かを忘れている感覚に囚われる。
だが、それもやがて強制的に中断させられることになる。
「い、一夏……貴様というやつは!」
「一夏〜!? 煙にかくれて何してんのかと思ったら……よりによって紫音と!?」
「一夏さん!? お姉様に何をしているんですの!」
やがて煙が晴れ、その姿が確認できるようになった観客席から姦しい声が響き渡る。まさしく女三人寄れば……という状態であるがその声を一身に浴びる本人はたまったものではない。
『は? いや、これは違うって!?』
今の状況が観客席からどう見えるのかを正しく理解した一夏はおおいに慌てるが、反射的に紫苑から離れたりしなかったのはいろんな意味でさすがである。さすがに未だに足取りの覚束ない状態で急に離れられては、紫苑といえども倒れていたかもしれない。
だが、だからこそ彼女らの心象をさらに悪化させてしまうのもやはり彼らしいと言える。
『ふふ、ごめんなさいね。もう……大丈夫ですので』
『あ、いや、こちらこそ……ごめんなさい?』
彼の疑問符のついた謝罪は先ほど紫苑に叱咤されたことに対してか、はたまた無意識とはいえ密着してしまったことに対してか……少なくとも今の彼の顔が真っ赤だったことだけは確かである。
『勝者、西園寺・更識ペア!』
一夏が棄権の意を示したことで、試合の終了が告げられる。
フランスによる性別詐称、ドイツによる条約違反。世界の捻れは徐々に広がりを見せていた。
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