知らない
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ここにいるみんなの空気が止まった。藤崎さんはヒカルを二度見して、ヒカルのお母さんはもう一回ヒカルに説明した。確かに目は合ったはずだった。
「何言ってるの、ヒカル。藤原佐為さんよ。ちゃんと挨拶しなさい」
ベッドを介して向こう側にいるヒカルのお母さんは私を見てヒカルに気づかせようとした。ヒカルは頭を回して「いて・・・」と眉間に皺をよせながらもこちらを向いた。ヒカルの瞳はまっすぐ私を射ぬいた。気持ち悪い感覚が体に走る。ヒカルの視線がこんな風に私を傷つけるなんて思ってもいなかった。
ヒカルは「どうも」と小声で挨拶をしてすぐに母親のほうに頭を戻した。ヒカルのお母さんの疑惑を抱いた表情とぶつかった。
「ケンカでもしたの?」
ヒカルが拗ねてこうしていると願いたい。でも、そんなことはないに決まってる。ヒカルはそういう人だ。
「いえ」
私に否定されたから、ヒカルのお母さんはヒカルに答えを求めた。ヒカルは母親に手招きしてもっと近くにくるように合図した。ヒカルのお母さんに小声で話す声が聞こえてしまった。
「誰だっけ。囲碁関係思い出しても全く心当たりがなくってさ」
ヒカルのお母さんは目を見開いてヒカルを凝視した。ヒカルのお母さんの隣にいた藤崎さんも信じられないといった風にヒカルを見ている。
「あんた、本気で言ってるの?」
「だから分かんないんだってば」
「ヒカル君、目覚めましたか」
開放された病室の扉から若い男の医者がヒカルのお父さんを連れて早歩きでやってきた。私はベッドの横から退いて医者がヒカルにいろいろ質問していくのを聞いていた。私は抜け殻になっていた。外に面している壁に寄りかかりながらヒカルから飛び出てきた言葉を思い返す。
医者が質問をし終わった。数時間後、本当に異常がないか検査をするらしい。ヒカルは頭部の痛み以外何も異変はないと言っている。ただ、お腹が空いているらしい。
医者が出て行ってから、ヒカルたちが話しているのを横目に、私はこっそり病室を抜け出そうと考えた。さっきから胸がずきずきして、涙がこぼれそうだった。何の涙かよく分からないけれど、とりあえず今はヒカルの元から離れたかった。出ていこうとしたその時、ヒカルのお母さんに引きとめられた。「ヒカルがあんな態度でごめんなさい」とヒカルのお母さんは小声で申し訳なさそうに言った。彼女が私を思いやるのが伝わってきて、悲しくなってきて、私は思わず涙を流してしまった。ヒカルのお母さんの顔が滲む。後ろでヒカルとヒカルのお父さん、藤崎さんがこっちを見ているのが分かった。拍車がかかって涙がどばどば溢れてくる。ヒカルのお母さんは私の背中に優しく手を回して病室から出た。
病室の外にある長椅子に座って、涙が落ち着くのを待った。ヒカルのお母さんが
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