第36話 貴虎の泣き所
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倒れたテントの一つを回り込むと、光実の足先を固い物が掠めた。
見下ろす。ガラスの立方体に詰められたロックシードが地面に散乱していた。
(そうだ、ランキング! ここで負けて帰ったら舞さんに怒られる)
見回す。ロックシードはあちこちに落ちている。中にはアタッシュケース一箱にぎっしり詰まっているものもある。
それらの光景から、光実は閃いた。
…………
……
…
貴虎は腹を抱えるようにして、ベースキャンプを目指して“森”を歩いていた。
(あの小さなアーマードライダー、碧沙と同じくらいの年頃の娘だった。今はあんな子供までカラーギャングの真似事をするものなのか。しかしあの思いきりの良さ、下手をすると内臓を持って行かれるところだった)
別に戦闘狂でもないのに、あんな少女に負けたことはしばらく忌まわしい記憶として忘れられそうもない。
やがてベースキャンプが見えてきた。無人だ。
避難が完了したからか、インベスに襲われたか――後者はあってほしくない貴虎だった。
小さなアーマードライダーから食らったダメージでずくずくと腹は未だ熱を持っている。だが、部下の前では毅然とした上司であらねばならない。
貴虎は精神力だけで痛みを無視し、前屈みだった背中をまっすぐに戻し――クラックを抜けた。
「呉島……主任?」
調査班の数名が訝しんだ。インベスがいない状況、開け放たれたタワー外へのシャフト。これらが示す答えは忌々しくも一つきり。
貴虎は頭上を見上げて奥歯を噛みしめた。
(まさかクズに部下を救われるとはな――!)
再び部下のほうを見やった。そして貴虎は、決してこんな場所で顔を合わせてはならない相手がそこにいることに気づいて、愕然とした。
調査班に守られるように、呉島碧沙が肩身狭そうに立っていた。
「兄さんっ!」
碧沙は貴虎を認めるなり、出てきて貴虎に抱きついた。衝撃に傷の痛みが戻った。
「ご、ごめんなさい。ケガしてたの? イタイ?」
「へい、き、だ。それより、どういうことだ。どうしてお前がここにいる」
「貴兄さんがあぶないことをしてるんじゃないかって光兄さんが言ったの」
「光実が?」
「貴兄さんと同じ甘い香りがあの“森”でもした。“森”で貴兄さんに何かあったらって思ったら、わたし、いてもたってもいられなくて。ビートライダーズのゲームの時、こっそりあの森に入ったの……ごめんなさい、貴兄さん」
碧沙はさめざめと泣き出した。さすがの呉島貴虎も妹の涙には怒れない。
貴虎は、しゃくり上げる碧沙の頭を、家出するように撫でてやった。尋ねたいことは山ほどあるが、今は忘れることにした。
「……分かった。泣くな。終わ
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