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乱世の確率事象改変
白き蓮は折れず
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わんばかりに。
 そして、兵にとっては甘い誘惑である麗羽からの言葉は、精強たる幽州の兵達の心を……一筋たりとも揺さぶらなかった。
 ふいに石が一つ投げられる。遠すぎて敵大将の元には届くわけが無いのだが、それでも一つの敵意は投げられた。
「我らが主は王足りえる! 貴様は我らが王には届かん! 誇り高き白馬の王は如何様な甘言にも惑わされる事は無い! 我らが命は白馬の王と共に! 我らが主がこの地に立つ限り、従う我らは全ての侵略者を打ち倒す真の勇者とならん!」
 たった一人の、体格も、容姿も、力も、全てが普通の兵の激発が天高く響き渡った。目に涙を溜めて白蓮の目の前に飛び出して城壁のギリギリまで駆け寄り、敵に向けて放たれた情けなくも震える大きな怒声は……壊れかけていた白蓮の心を救った。
 一人に倣って二人、三人、四人と兵達が言葉を投げ始める。
「貴様らは俺達の安息の地に踏み込んだ大敵だろうが!」
「下らない甘言に惑わされるか!」
「我らの王を侮辱した罪、その命では贖いきれんぞ!」
 怒号は波となって麗羽に押し寄せ、余りの勢いと殺気にたじろぎ、馬を少し下がらせた。
 それを見て城壁の段差の上に二人、さっと飛び乗った者が居た。
 白き衣服を纏いて槍を天に翳す美しい昇龍と、主とほぼ同じ紅の様相にて戦斧を敵に突き付ける凛とした白馬の片腕。
 紅白の二人を見やった兵達は口を噤み、その代わりとばかりに敵に対して城壁から並んで顔を出し睨みを効かせた。
「我らが主は知っているぞ! 貴様らが外道策を行うような輩である事を! 裏切りも貴様らの誑言策であろう! 見よ! 真の臣下は全て揺るぎなく、忠を尽くしてここにあり!」
「浅はかなり袁家! 欲に塗れた貴様らの腐った言葉など誇り高き我らには届かん!」
 瞬間、全ての兵から雄叫びが上がる。
 友にして忠臣たる星と絶対の忠臣たる牡丹の二人は振り向いて彼女に微笑み掛けた。
 白蓮は――――涙を流しながら笑っていた。
 自分を信じてくれている全ての者の気持ちが嬉しくて、自分の誇りを代わりに守り抜いてくれる者達が誇らしくて、自分を認めてくれている全ての存在が愛おしくて。
 二人は手を差し出し、白蓮はぐしぐしと涙を拭い、その手を取って同じように城壁の段差に昇る。
 ありがとう、と小さな呟きは誰への言葉なのか。
 胸を張り、大きく息を吸って敵を睨むこと幾分。呆れた、というように盛大に息を吐いてから、不敵に笑って口を開いた。
「言ったはず! 例え百万の軍勢を引き連れて来ようとも、我らは袁家に従う事は無い! 平穏を乱す悪逆の徒よ! 貴様らに誇りは無いのか! いや、無いのだろう! 誇り無き獣達よ、地を這いずる卑劣なる愚者よ、貴様らは白馬の馬蹄にて蹂躙してくれる! 我らが怒りを知るがいい!」
 夕日に照らされた誇り高き
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