第31話 ヘルヘイムの森 紘汰&ヘキサ A
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
さすがのヘキサも、いかにも兵士らしい職の人々に銃を向けられ、実は体全体が小刻みに震えていた。だがここで折れれば光実の計画は頓挫する。それを支えに笑顔を保った。
「おい! お前、どこから入った! 何者だ!」
「え、わたし、ヘンな裂け目みたいなのがあって、そこに入ったらここにいたんですけど。ここ、どこですか?」
幸いにも声は震えていなかった。
兵士の一人がどこかと通信するような仕草をする。その間も包囲は解かれない。
その内、何かの指示が出たのか、兵士が二人来てヘキサの両腕を乱暴に掴み上げた。
「いた…っ、何するんですか!」
わざと大袈裟に痛がって見せれば、周りの人々の目がヘキサに向いた。注目が最高値に達したのを、ダンサーならではの触覚で確信した。
「っ、あなたたち、ユグドラシル・コーポレーションでしょう? いいんですか? わたしは呉島貴虎の身内です。わたしにヘンなことしたら、貴虎がだまっていませんよ」
前もって考えていた台詞を告げると、兵士と、加えて白衣や防護服の人々もざわめき始めた。
(光兄さんの考えてた通りだった。貴兄さんの名前に反応するなら、貴兄さんは確実に関係者)
兵士の腕の力が緩んだが、ふりほどくことはしなかった。ヘキサはただ兵士の応対を待った。
そうしていると、ヘキサを掴んだ兵士に通信が入った。入ったと分かったのは、先と違って至近距離で捕まっていたからだ。
《その子の言ってることは本当だよ》
「プロフェッサー凌馬――」
《その子は正真正銘、貴虎の身内だ。せっかくのクリスマスだ。彼女を案内してあげたまえ。彼女は“特別”だからね》
通信が切れたようだった。防護服や白衣の人々が急にヘキサに礼を取った。我が兄ながら恐ろしいネームバリューである。
白衣の一人がヘキサをテントに案内すると申し出たので、ヘキサはにこにこを保ちながら付いて行った。
しばらくは呆気にとられていた紘汰だが、はっとした。
どう言ったかまでは聞き取れなかったが、ヘキサが作ってくれたチャンスだ。
紘汰はもう一つのテントの裏から回り込み、テントに入り込んだ。騒ぎのおかげで誰もいなかったので易々入れた。
テントの中にはラックと棚が一つずつと、テーブルの上にPCとディスプレイが2台あった。画面は2×2分割され、“森”のあちこちを映し出している。
紘汰はまずラックのファイルから検めることにした。
手始めに「ドライバー装着者リスト」というファイルを取ってその場でめくった。
1ページ目は紘汰の顔写真付きパーソナルデータだった。名前や生年月日はもちろん、住所、学歴と職歴、行動経過観察。
家族構成では両親が無いことや、姉・晶のデータも
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ