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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第七話 Phoney War
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ますか?」

「はい、順調なら二十二日には乗れるだろうと」
 そうなると豊久は、片道二日と見積もり――この部隊も二十日には帰さないとならない。
――衆民出身だから工兵としては期待できるし、今のうちに扱き使うか。
倉廩も矢弾も満ちていない男は、遠慮を一時的に忘却し、立っているし親でもない兵達を使い潰す事を決意した。
「殿下のご厚意と貴官たちの勇気に感謝します」
 近衛――実仁准将は、少なくとも兵を可能な限り戦火に晒さない形で報いてくれたのだ。
「はい、少佐殿。自分達には過分なお言葉です」
 親王殿下が慕われているのか、仮にも志願兵であるが故の矜持か彼らは熱心に動いてくれている。
「それでは大まかな指示は私が出しますが、基本的には本職である貴官にお任せします。
それと、本隊の工兵二個小隊は貴官の指揮下に預けます。
村に残されていた馬鋤等の農具も持ってきたので必要ならそれも使って下さい。
十九日、最長でも二十日までに完成させて下さい」



同日 午後第四刻 小苗橋南岸 独立捜索剣虎兵第十一大隊 本部天幕
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長 馬堂豊久少佐


打ち合わせも一段落し、実仁准将の御返書を拝見する。
難民の受け入れ交渉の成功と最後まで粘る俺達への感謝と頼まれた補給の融通と更に志願した工兵を協力させるが可能なら内地へと帰らせて欲しい旨が書かれていた。
 紙は最高級であり流麗な文字で書かれて親王に相応しい官位・官職を記されている。
だが、本文はその達筆には似付かわしくない程に実務的――軍人的な文だった。

 ――成程ね。軍人振りが板に着く程に軍人としての意識が高い御方か、流石は皇国随一の弱兵部隊を率いて後衛を成功させた御方だ、軍人としても策略家としても一流だ。


今の状況とて実仁准将の目論見通りである。
実仁“准将”としては一刻も早く撤退したいだろうが実仁“親王”としてはこの守原の大敗を機に成果を挙げ、近衛の、ひいては皇室の発言権を強化したいだろう、何しろ現在の五将家の寡頭政治制に対抗する衆民勢力が台頭し、五将家の一角である守原が盛大な失敗を犯したのだ。
 そして自分は親王であり、皇族が戦場に立っている、この立場を利用しない筈がない。
 当然ながら守原大将は、同じ予備であった実験大隊を共に後衛戦闘に配置し、敵をそちらに誘引させるだろう、皇族を戦死させたら嬉々として他の四将家が潰しにかかってくる。
そして戦闘を避けながらも後衛戦闘を成し遂げれば近衛の名を大いに上げられる、その為にこの危険な綱渡りを続けていたのだ。
――で、その皺寄せをくらったのが俺たちだ。
 未だ情報幕僚だった時から彼自身が危惧していた事である。

なればこそ今回の美名津への衆民の避難の護衛と受け入れ交渉は成果を挙
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