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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第七話 Phoney War
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皇紀五百六十八年 二月十五日 午前九刻 真室大橋より後方二里
遅滞戦闘支隊 支隊長 新城直衛大尉


 遅滞戦闘隊の指揮をあずけられた新城直衛は闊達に行動を行っていた。
増援を含めた主力の殆どを預けて大隊長は美名津への村民の避難に必要な転進支援本部や近衛との調整を行いながら後退を行っている。
 ―今朝、兵藤少尉も尖兵小隊を率いて真室へと出発した。

「新城大尉殿」
「何か」
「砲撃の用意が整いました。後は着弾調整のみです」
 報告を行う冬野曹長は五十路前後の砲兵下士官であり、それは即ち、砲に関して全てを知り抜いた男であることを意味している。
 新城は技術的な問題は全て彼に任せている。
「開始してくれ。」
 帝国側も流石に焼き落とされた橋の修復には手間取っていたようであった。
何せ、この真冬の北領で川に胸まで漬かって作業する事は不可能だ。
 弾着観測の為に派遣した者達からの連絡によると、彼らは川底に杭を打ち込み、筏を繋ぐ事で浮き橋を作っている。
「考えたものです、あれなら遅くても三日で完成するでしょうな」
 増援として送られてきた工兵中尉が云った。
 笹嶋中佐は篤実に尽力を行なってくれた、増援は騎兵砲三個小隊に鋭兵二個中隊、そして短銃工兵二個小隊、それらの給食分隊に輜重小隊と予定より多く送られ、大隊も頭数だけなら八百近くなった。
「だからこそ、僕達がこうしているわけだ」
 有効射程内ぎりぎりだが接収した砲も含め、十八門もの騎兵砲、そして十分有効射程内の三門の擲射砲が製作中の浮橋を、そして作業中の工兵を狙っている。
調整の為に数発一番砲車が数発放った後効力射を始めた。
射程外だが六門の平射砲も接収している。中々の光景だ。

まあ正直、剣虎兵大隊と言うより鋭兵大隊に近くなった気もするし、長射程の重砲まで有しているのは大隊長殿の好みなのだろう――砲兵少佐なのだ、本来は。

急造の部隊だが、偵察の為に渡河した猟兵三個中隊を排除に成功し砲を展開する事が出来る程度には統率をとれている。
 ――もっとも当分はまともに戦うつもりはない、大隊長殿からは苗川までは作業の妨害と偵察部隊を潰す事に徹底する様に命じられている。
 新城は歪んだ笑みを浮かべた。
 ――さて、戦わない戦争といこうじゃないか。


二月十六日 午前六刻 北領真室大橋より二十里後方・苗木村


 北領に点在する中の小規模な農村の一つである苗木村は深い恐怖と怒りに包まれていた。

「どうか、どうか、お助け下され、帝国の輩が、
村へ鉄砲を、倉へ押し入ろうとして、止めようとした若い衆が」

村長である苗木井助は、村を訪問した皇国軍の隊長である将校に
歓迎の言葉もそぞろに嘆願した。

「その方々は――怪我を?それとも・・・」
 そ
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