第七十二話 愛の女神の帯その五
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「そういうのはその相手と食うものだからな」
「そうだな」
「ああ、そうだからな」
それ故にだというのだ。
「俺は今度はあんたとは食べない」
「そういうことだな」
「それに今こうして一緒に食べているのもな」
「たまたまだからな」
「まさかここで会うとはな」
「色々と縁があるよな」
同じ大学にいればあるものだが戦う相手同士だ、それで共にこうして向かい合って食べることはだというのだ。
「本当にな」
「そうだな、俺もあんたは嫌いじゃない」
広瀬も中田に言った。
「だからあんたもな」
「ハッピーエンドになって欲しいんだな」
「出来ればな」
「そうか、前から思っていたがな」
「そこから言う言葉はわかるさ」
「わかるか」
「ああ、俺はいい奴だっていうんだろ」
笑って広瀬に問うた。
「そうだよな」
「その通りだ」
広瀬も少し笑って返した。
「実はいい奴だとな」
「実はかよ」
「どうも曲者に思えるからな」
「ははは、まあ曲者かもな」
この指摘を受けてもだ、中田は笑っていた。
「これで結構黒いからな」
「人間なら誰でも黒いところはある」
「だからいいっていうんだな」
「別に気にしない。俺もそうだ」
「それで俺はか」
「いい奴だ、実はな」
『実は』という言葉はあえて消さなかった。
「そう思う」
「俺だって戦って誰か倒さずに願いが適うならな」
「それでいいな」
「ああ、万々歳だよ」
本当にそうだというのだ。
「完璧なハッピーエンドだよ」
「ハッピーエンドか」
「やっぱりそれが一番だろ」
「世の中そうもいかないがな」
「まあ完全なバッドエンドもな」
「そちらもか」
「そうそうないだろうな、誰もが不幸になって最悪の結果で終わるっていうのはな」
こちらもそうはないだろうというのだ、だが中田はその『完璧なハッピーエンド』についてもこう言うのだった。
「それはリアルでもないしな」
「小説や漫画でもだな」
「アニメやゲームでもな」
そうした空想の世界でもだというのだ。
「ないさ、完璧な大円団は少ないさ」
「必ずそこに何かがあるか」
「オペラでも歌舞伎でもだろ」
「大抵は誰かが死んだりしてな」
「そのうえで悲しみや無念もあったうえでのな」
「ハッピーエンドだな」
広瀬も言う。
「そうしたものだな」
「そうだよ、だからこの戦いもな」
「完璧なハッピーエンドにはならないか」
「あんたがそうなってもな」
「他の奴がそうはならないか」
「それは俺かも知れないしな」
中田は自分のことも言ったがそこには達観があった。
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