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久遠の神話
第七十二話 愛の女神の帯その三
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ュルンベルグのマイスタージンガーなんだよ」
「今日ね、実はね」
「実は。何だ」
「牧場に来て欲しいの」
「三日前に行ったばかりじゃないのか」
「今日もなの」
 こう広瀬に言うのだった。
「そうしてくれるかしら」
「何かあるのか」
「あっ、ちょっとね」
 ここでは口ごもった、由乃のその声が。
「まあ何ていうか」
「どうしたんだ」
「それは今日牧場に来てからね」
 それからの話だとだ、由乃は電話の向こうでどうにも戸惑い何かを隠している顔で広瀬に対して言うのだった。
「そういうことで、だから」
「今日だな」
「うん、今日ね」
「わかった、とにかく今日講義が終わったらだ」
 部活は休むことにした、由乃の話から早いうちに行った方がいいと察してだ。
「すぐに行く」
「それじゃあね」
 こうした話をした、そして。
 まずは午前中を過ごした、それからだった。
 食堂で昼食を食べていた、、食べているのは親子丼ときつねうどんだ。野菜のおひたしも二つある。ほうれん草ともやしだ。
 そういったもんを食べているとだ、彼の向かい側の席に中田が来た。中田は海老フライ定食をテーブルの上に置いてから彼の前に座った。
 そのうえでだ、いただきますをしてから彼に言ってきたのだった。
「何か考えてるね」
「だとしたらどうする」
「聞いたよ、あの先生は戦いから降りたね」
「そうらしいな」
「これでまずは一人だな」
 一人が降りたというのだ。
「このまま戦わずに済んでいけばいいな」
「そうだな。そしてな」
「あんたのところにも話が来たかい?」
 中田は広瀬の目を見て笑顔で問うた。
「そうかい?」
「さっきと言葉は同じだ」
 だとしたら、という言葉は繰り返さなかった。
「出来ればこれでな」
「そうか、じゃあ無事にな」
「俺に戦いから降りて欲しいか」
「願いを適えてな」
 そのうえでだというのだ。
「そうしてくれたらな」
「応援か」
「ははは、そうかもな」 
 中田は広瀬の今の言葉に笑って返した。
「俺もあんたがただ戦いを降りるんじゃなくてな」
「願いを適えたうえで降りればか」
「それに越したことはないな」
 それでだというのだ。
「俺にしてもな」
「ハッピーエンドならか」
「俺はハッピーエンドの小説や漫画しか読まないんだよ」
 中田は海老フライで大盛りの白い御飯を食べながら言った。
「だからな」
「俺もか」
「そうだよ、それにな」
「それにか」
「俺はあんたを嫌いじゃない」
 その広瀬をだというのだ。
「むしろ結構好きなんだよ、人間としてな」
「俺をか」
「一途な奴は嫌いじゃない」
 中田の好みだった、これは。
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