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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二話 没落の始まり
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公も頭を痛めている……」
「……」
トリューニヒトが首を振っている。役者だな、お前さんがサンフォード議長を嵌めようとしているなど誰も思わないだろう。
“十五万隻か、大軍だな”と呟く声が聞こえた。トレルか、それともラウドか。二人とも深刻そうな表情をしている。
「こちらも全戦力を上げて貴族連合軍を迎撃する」
トリューニヒトが発言すると皆が彼に視線を向けた。
「幸い連中は同盟領内へ侵攻してくれるのです、引き摺り込んでこれを殲滅する。シトレ元帥からはそのように防衛方針を定めたいと要望が出ています。宜しいですな、サンフォード議長」
サンフォード議長が周囲を見回した。何人かが頷いた、それを見てサンフォード議長が頷いた。
「良いだろう」
「では防衛の基本方針が決まった以上、兵の運用に関しては軍に一任する。そういう事で宜しいですな」
トリューニヒトがサンフォード議長に念押しすると議長が不思議そうな表情をした。
「敢えて聞く事でも無いと思うが?」
「いえ、今回貴族連合軍は十五万隻の大軍です。少しの乱れが敗北につながる恐れが有ります。そうなれば同盟は非常な危険に陥るでしょう。軍を混乱させるような事は慎むべきだと念を押しております」
トリューニヒトの言葉に皆が頷いた。敵意を隠さないターレル、バラースも頷いている。敗北すれば自分達の身も危険だ、そう思っているのだろう。大軍で攻めてくるというのも悪い事ばかりではなさそうだ。
「分かった、後は軍の仕事だ。必ず敵を撃破してもらいたい。頼むよ、トリューニヒト国防委員長」
「シトレ元帥にそのように伝えます」
サンフォード議長が頷いている。これでサンフォード議長は軍の作戦に口出しは出来なくなった。フェザーンが助けを求めて来ても議長には打つ手が無い。例え命令してきてもトリューニヒトは今回の事を言いたてて拒絶することが出来る。今後、主導権はトリューニヒトが、和平派が握る事になるだろう。
サンフォード議長もフェザーンのボルテック自治領主も身動きが出来なくなるはずだ。どの時点でボルテックがサンフォード議長を切り捨てトリューニヒトに乗り換えるか、その時が勝負だな。それまでにターレル、バラースをこちらの味方に付ける……。
気が付けばトリューニヒトがこちらを見ていた。視線をターレル、バラースに向けてからトリューニヒトに戻す。トリューニヒトが微かに頷いた。分かっている、そういう事だろう。へまをするなよ、トリューニヒト。多分、これが最初のチャンスだ。そして最後のチャンスかもしれないのだから……。
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