第二章
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第二章
その中で君は一枚のウォーホールの前で立ち止まった。僕はそれを見て見惚れていた。
「いいわね、これ」
「そうかな」
この時僕は狙っていた。今だから言えるけれど。
「別にそうは思わないけれど」
「そう?ここにあるので一番いいと思うけれど」
「精々二番だね」
僕はこう答えた。
「どう見ても」
「じゃあ一番はどれなの?」
「目の前にいるよ」
「目の前に・・・・・・いる?」
君が僕のその言葉にキョトンとしたのと丁度そこに誰もいなかったのがラッキーだった。念の為に素早く辺りを見回してから君に顔を近付けて。すぐにキスをした。見逃さなかった。
「えっ・・・・・・」
「やったね」
驚く君の目にウィンクした。これで決まった。
「これでね。君と一緒になれるね」
「参ったわね」
唇を左手で押さえて真っ赤な顔で呟いたのは今でも覚えているよ。
「こんなふうにされるなんて」
「駄目だったの?」
「いいえ」
僕の言葉に首を横に振ってくれた。いい意味で。
「いいわ。けれど」
「けれど?」
「今度は私の番よ。次のデートの時にはね」
「どうするの?」
君の思わせぶりな笑みを見てまた君に尋ねたね。
「それで」
「その時にね。わかるわ」
「そうなんだ」
それで今度のデートが決まった。場所は所沢の西武球場。外野の応援席は奇麗なグリーングラスだった。そよ風がさして試合が見られる。あの頃西武は憎たらしい程強かった。これも本当に昔の話になったけれど。
僕は最初試合を見ていたけれど何時の間にかうとうとしていた。今思うと君はこの時を狙っていたんだってわかる。僕がうとうとするその時を。
気付くと僕が最初に見たのは水色の宇宙。一面の空だった。
「寝ていたんだ」
「そうよ」
君の声が聞こえてきたのを今でも憶えているよ。
「気落ちよさそうね」
「座っていたと思うけれど」
「最初はね」
また君の声が聞こえてきた。ここでその声が上からなのがわかったんだ。
「そうだったけれど」
「そうだったんだ。それに何か」
やっと気付いた。頭の後ろに感じる柔らかい感触に。柔らかいだけじゃなくて暖かった。温もりを感じていたんだ。
「暖かい。どうして」
「知りたい?」
僕に尋ねてきたその時。君の声は笑っていたね。
「それがどうしてか」
「うん」
そして僕は。君のその申し出に頷いた。どうしてもそれを知りたくて。
「どうしてなの。それは」
「これよ」
「これ?」
僕が何かわからないでいたその一瞬の間に君の顔が上から出て来てそれで僕にキスをした。あの時とは完全に逆だった。
「こういうことなのよ」
唇を離した君が微笑んでいた。僕の顔を覗き込んで。これでやっとわかった。僕も。
「そういうこと
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