十七日目 十二月七日(水)前編
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浮かべた。
町内に夕方五時を知らせる時報が流れた。
「今週は寒いな……」
空はあいにくの曇り。先週と同じ季節とは思えない冷え込みに、橘純一は身体を震わせた。
「えっと、美也は商店街でまんま肉まん食べてるんだったな。で、森島先輩と塚原先輩も商店街で買い物っと。……はぁ。どうせなら、先輩達とご一緒すれば良かった。でも、なんかもじもじしてたしなぁ」
「何ぶつぶつ言ってるのよ。こんなに可愛い子が隣に居るのに、サイテーね」
純一の顔に苦笑が浮かぶ。突然聞こえる毒舌にも大分慣れてきた事が、何だか可笑しかった。
「……セイバー、どうしてサーヴァントは聖杯を求めるんだろう?」
「どうしてそれを今聞くのかしら」
真顔で問うた純一に対し、制服姿のセイバーが鋭い視線を返す。
「アーサー王って、気高くで、騎士の中の騎士っていう、伝説のイメージ通りの人って、ランサーが言ってただろ? そんな人がさ、バーサーカーみたいになってまで聖杯を欲しがる理由ってなんなんだろって」
「……そうまでしてでも叶えたい願いを、サーヴァントになる者は皆、持っているのよ」
セイバーの瞼が少し閉じられ、何だか寂しげな表情が浮かんだ。
「……それってセイバーにも、叶えたい願いがあるって事?」
少し躊躇した後、ゆっくりとセイバーが口を開いた。
「ええ、そうよ」
「……もし良かったら、それが何か聞いてもいいかな?」
セイバーの口は、開かない。沈黙が空気を重くする。
「ごめん、聞かなかった事にしてよ」
「……復讐よ」
「え?」
日差しが無いからだろうか、純一には今のセイバーがやけに暗く見えた。
「あたしの願い。それはね、神への復讐よ」
「えと、セイバー? それって、どういう……」
だが純一は最後まで言葉を続ける事が出来なかった。
「来たわ。ライダーのところよ」
「美也!」
セイバーが、純一の身体を軽々と抱えた。
「じっとしてなさい。行くわよ」
人間には決して出せないスピードで、セイバーが駆け出した。
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