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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第47話 「できる事と、やりたい事と、やるべき事」
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 第47話 「人生とは、不条理なもの」

「――ロボス」
「シトレか」

 統帥作戦本部の廊下で、背後から声を掛けられた。
 振り返るとシドニー・シトレが、深刻な面持ちで立っている。こいつも今回の出征には反対だったな。

「出るのか」

 低い声だった。いくぶん震えているようだ。
 無理矢理、感情を抑えようとすれば、この様な声になるのかもしれない。
 この男にしては、珍しい。

「うむ。私が出ねばなるまい。出征に賛成した者の責任だ」

 今回の出征は当初の予定とは、違ったものになってしまった。
 軍を集結させる事で、帝国……いや、あの皇太子から反応を引き出す。その上で向こうから打診させ、交渉させる事で優位に立つ。
 実際に軍を動かす必要などなかったのだ。
 動かすぞ。そう思わせるだけでよかった。
 ティアマトか、アスターテ。それともイゼルローンか、フェザーン、どこに向かうのか我々の方が選ぶ。それが可能だった。
 戦略的優位に立つ。
 主導権を得るとはそういう事だ。
 だが、あの皇太子は打診こそしたものの、強引に帝国軍を動かした。
 しかも激怒した振りをして……。
 あの皇太子がそう簡単に、怒り心頭する様な単細胞であるものか。
 そんな単細胞であれば、帝国の改革などできん。
 冷静だ。冷静であるからこそ、実際に軍を動かさないだろうと思った。そこに交渉の余地がある。

「……しかしあの皇太子、ごちゃごちゃ考えずに動かす方を選んだ」
「繊細かつ大胆不敵な男だ」

 皇太子の二面性。
 迂闊だった。あの皇太子の二面性を甘く見ていた。
 あんな男が部下にいれば、どれほど心強い事か……。

「英雄になりたがる者は多いのだがな。実際に英雄になれる者は少ない」
「英雄など、酒場に行けばいくらでもいる。しかし歯医者の治療台の上には一人もいない。確か、君が目を掛けている者の言葉だったか」
「ヤン・ウェンリーだ」
「そうか、彼は今回の出征には置いていこう。こんな無駄な戦いで失いたくないだろう?」
「すまんな」
「気にするな。後のことは任せたぞ」
「ああ、武運を祈る」
「分かった」

 ■国務尚書執務室 リヒテンラーデ候クラウス■

 皇太子殿下の怒りは、オーディン全土を揺るがした。
 貴族のみならず、平民達ですら怒りに燃えている。
 そう単純な話ではないのだが……。あのお方が中々見せようとはしなかった、扇動者としての側面だ。士官学校時代、あれほど人を動かすのがうまい、士官はいなかった。
 そう評価された所以だ。この能力があれば、平民達を思い通りに動かせただろうに。
 皇太子殿下はそれを嫌っておられる。
 両手の届く範囲が幸せであれば、それで良い、か……。
 銀河帝国皇太子にし
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