第47話 「できる事と、やりたい事と、やるべき事」
[1/5]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
第47話 「人生とは、不条理なもの」
「――ロボス」
「シトレか」
統帥作戦本部の廊下で、背後から声を掛けられた。
振り返るとシドニー・シトレが、深刻な面持ちで立っている。こいつも今回の出征には反対だったな。
「出るのか」
低い声だった。いくぶん震えているようだ。
無理矢理、感情を抑えようとすれば、この様な声になるのかもしれない。
この男にしては、珍しい。
「うむ。私が出ねばなるまい。出征に賛成した者の責任だ」
今回の出征は当初の予定とは、違ったものになってしまった。
軍を集結させる事で、帝国……いや、あの皇太子から反応を引き出す。その上で向こうから打診させ、交渉させる事で優位に立つ。
実際に軍を動かす必要などなかったのだ。
動かすぞ。そう思わせるだけでよかった。
ティアマトか、アスターテ。それともイゼルローンか、フェザーン、どこに向かうのか我々の方が選ぶ。それが可能だった。
戦略的優位に立つ。
主導権を得るとはそういう事だ。
だが、あの皇太子は打診こそしたものの、強引に帝国軍を動かした。
しかも激怒した振りをして……。
あの皇太子がそう簡単に、怒り心頭する様な単細胞であるものか。
そんな単細胞であれば、帝国の改革などできん。
冷静だ。冷静であるからこそ、実際に軍を動かさないだろうと思った。そこに交渉の余地がある。
「……しかしあの皇太子、ごちゃごちゃ考えずに動かす方を選んだ」
「繊細かつ大胆不敵な男だ」
皇太子の二面性。
迂闊だった。あの皇太子の二面性を甘く見ていた。
あんな男が部下にいれば、どれほど心強い事か……。
「英雄になりたがる者は多いのだがな。実際に英雄になれる者は少ない」
「英雄など、酒場に行けばいくらでもいる。しかし歯医者の治療台の上には一人もいない。確か、君が目を掛けている者の言葉だったか」
「ヤン・ウェンリーだ」
「そうか、彼は今回の出征には置いていこう。こんな無駄な戦いで失いたくないだろう?」
「すまんな」
「気にするな。後のことは任せたぞ」
「ああ、武運を祈る」
「分かった」
■国務尚書執務室 リヒテンラーデ候クラウス■
皇太子殿下の怒りは、オーディン全土を揺るがした。
貴族のみならず、平民達ですら怒りに燃えている。
そう単純な話ではないのだが……。あのお方が中々見せようとはしなかった、扇動者としての側面だ。士官学校時代、あれほど人を動かすのがうまい、士官はいなかった。
そう評価された所以だ。この能力があれば、平民達を思い通りに動かせただろうに。
皇太子殿下はそれを嫌っておられる。
両手の届く範囲が幸せであれば、それで良い、か……。
銀河帝国皇太子にし
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ