第3部:学祭2日目
第11話『猛撃』
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息づきながらも律は、憂に問う。
憂の目は、赤い。
「お姉ちゃんが、朝起きたら、いなくて……」
「はー?」思わず律は、唖然となってしまう。「いったいどこに行きやがったんだ?」
「何となく、察しはつくけど……」
憂が曇った表情で向いたのは、誠の家がある方角。
律もすぐに察し、
「……伊藤んところか。ほんと唯の奴、どこまであいつにこだわるんだ……」
「……律さんが伊藤さんに近づくなと言うから、お姉ちゃんはかえって怒っちゃったんじゃないんですか?」
「正直、あいつを警戒するに越したことはねえと思って、言ったんだけどよ」律はこめかみを押さえつつ、「……悪かった。とりあえず、先回りして榊野に行くとするさ。いずれ澪も追い付くだろうし」
「待ってください。澪さんは、甘露寺って人に狙われてるんじゃなかったんですか?」
「大丈夫だ。澪ファンクラブの人に、澪をガードするように頼んでいたから」
「……ならいいかもしれませんが……。この分だと、榊野評はガタ落ちですねえ」
「私は先行って、学祭の様子を見てくる。それと、西園寺にも電話しねえと……」
「西園寺さん?」
「メールで知ったんだけどよ」律は真顔で、「西園寺は、あの沢越止が外に作った子供らしい」
「え……? じゃあ伊藤さんと西園寺さんは、血を分けた兄妹ってこと?」憂はあり得ないといった顔つきで、「一昔前の昼ドラじゃあるまいし、まさか……」
「その『まさか』らしいぜ。あんとき消極的だったのも、そのためのようさ」
「そうですか……」憂は沈痛な面持ちで、「西園寺さんも、なんだか可哀想ですね……」
「ま、どれもこれもあの沢越止が悪いんだけどよ。人間には多かれ少なかれ、運命ってもんがあるしな……伊藤も西園寺も、それを乗り越えるしかねえよ」
「……ま、私達はそれを自覚することもなく、のほほんとやってきたけどね」
「まあ確かに」苦笑いしながら、「澪から聞いたんだが、伊藤は親父のことでずっと悩んでいたらしい。それが事実なら、伊藤は一番、運命を自覚してる気がする。
……んなこたどうでもいいか。とりあえず、西園寺にも手助けしてもらわねえとな。
梓の野郎、もう榊野には行きたくねえ、生徒たちとも関わりたくねえって、だだこねてやがるし……」
「そうなんですか、梓ちゃんが……」
憂は眉をひそめる。
「しょうがねえよ、頼れる人には頼ったほうがいいさ」
律は世界に電話をかけた。
古い、黒ずんだアパートの1階。
四畳半ほどの自分の部屋で、世界は布団にくるまったまま、すすり泣いていた。
「世界……」
その傍らで、刹那が憐れんだ表情で見ている。世界の母は、仕事に行った。
ピリリリリ……
世界の携帯から鳴る、着信音。
取ろうともしない彼女に代わり、刹那が取る。
「
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