夜見島と怪異
絶望の始まり
一樹守 10年前 『結末』 夜見島/離島線4号基鉄塔付近
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朝日は照らす。
怪異が去った現代の夜見島を、優しい色で包み込む。
終わった。
安堵の笑みを溢す男女2人が海岸に座り込んでいる。
一樹守と木船郁子。
雑誌編集者と漁港でアルバイトする女性という不思議な組み合わせ。
だがこの2人のみ戻ってこられた。
悪夢と絶望に満ちた異界、もう一つの夜見島から……。
堕慧児と母胎に支配された異界から免れた2人は、再び日の出を拝むことができた。
「綺麗だな……」
朝日を眺め、一樹は感嘆の声を漏らす。
いつもの日常では当たり前だった風景さえ、久々に感じる。
迎えは来るのか、そんな心配すら忘れるほど。
朝日を眩しそうに見ていた木船が突然立ち上がり、遠くの水面向けて大きく手を振った。
船だ。
夜見島に一番近い中迂半島、三逗港から来た漁船がこちらに向かっていた。
「おーい!こっちこっち!」
どうやら木船の知り合いの船の様だ。
その姿を見た一樹は微笑みながら立ち上がる。
「ようやく帰れるんだな」
「そうね、全部終わったんだよね……」
うんと背伸びしながら木船は話す。
さっきまで怪異に襲われ疲弊しているはずなのに、彼女の顔は明るかった。
船は砂浜に少し乗り上げ、乗りやすくしてくれた。
木船の知り合いの漁師・菊池が2人を快く船に乗せた。
突然一樹はゾクリと背筋に悪寒が走った。
恐る恐る振り返ってみる。
誰もいない。
居るはずがない。
一樹も木船も既に船に乗り込んでおり、島にはもう誰も居るはずが無かった。
だが何かを感じる。
禍々しい、憎悪に満ちた視線を。
「さぁ、動くぞ」
菊池の声と同時にエンジン音が鳴り響き、船はゆっくり動き出す。
一樹はもう一度島の方を見る。
やはり誰も居ない。
「もうこの島に来ること無いわよね……」
少し震えながら木船は問う。
出来れば二度とここに関わりたくない。
だが一樹にはそれを断言できなかった。
さっきの気配、誰かの視線。
「たぶん……な」
悪い予感が、現実にならないことを祈るばかりだった。
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