第三章
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「だから」
僕の方を振り向かない。
「最後のお別れまでは。一緒に行きましょう」
「一緒にいていいの?」
「最後だから」
君の最後という言葉が今でも耳に残っている。それが離れない。
「駅まで」
「わかったよ。じゃあ駅までね」
「そうよ」
こうして僕達は駅まで向かった。雨の中を傘もささず二人で。冷たい雨が身体よりも心に滲みた。こんな冷たい雨は今までなかった。
駅につく。僕はバス停に向かった。
「それじゃあ」
「そうね」
お別れの時だった。あまりに唐突でそして何も言えない別れだった。それが今僕達にやって来た。
「じゃあ」
「うん」
丁度バスが来ていた。それに乗る。最後に僕はバスの硝子越しに彼女を見た。見れば彼女は僕に対して優しく笑ってくれていた。
けれどその目は泣いていた。涙の笑顔だった。その笑顔で僕を見ている。僕はそんな彼女から目を離すことができない。僕の身体も心も濡れていたが彼女程じゃなかった。
雨が何時の間にか止んでいた。その中で僕達は見詰め合う。けれどそれはほんの一瞬だった。運転手さんの声が耳に入ってきた。
「出発します」
「じゃあ」
お別れだから。彼女を見る。その時だった。
泣いた笑顔のまま上を指差していた。そして僕に対して呟いてきた。
それは言葉は聞こえなかった。それでも唇の動きでわかった。雨雲が遠ざかっていく中で僕はその唇の動きを追うのだった。彼女は言っていた。
『親愛なる貴方に。最後にさようなら』
それで終わりだった。僕に対する最後の言葉だった。バスは発進して彼女の前から消えた。それで何もかもが終わってしまった。
雨雲も遠くへ行ってしまっていた。通り雨だった。激しいけれどそれは通り雨だった。
そして僕達のことも。結局は通り雨だった。
何も言えなかったし言わなかった僕だけれど。その通り雨は受け止めていた。その雨を受けてそれが過ぎ去ったのを感じて今思った。
「運命だったけれど。通り過ぎるものだったんだ」
今はそう思う。けれど忘れはしない。嘘をついてそれで潰れてしまった恋だけれど本気だったから。それは自分でも受け入れたのだった。今も。
Cherie 完
2007・1・15
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