第七十話 富と地と名とその十一
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「そうして下さい」
「そうは思えないですが」
高代は顔を正面に戻した、上から。
そして曇っている世界を見つつだ、こう樹里に答えた。
「いいエゴがあるとは」
「思えないですが」
「エゴは嫌しむべきものです」
そうしたものに過ぎない、こう言ったのである
「私ではなく公です」
「公ですか」
「それでしかないですから」
「あの、しかし」
「あるのですか」
「だって、専制って今は生徒の人達の為にそうしたいって思われますよね」
「それはそうですが」
「人を助けるのなら」
それならというのだ。
「いいエゴだと思います」
「だといいのですが」
「エゴも。悪いエゴは当然ありますけれど」
「いいエゴもですか」
「はい、ありますか」
「私もずっとエゴは悪いものだって思ってました」
樹里は何処か晴れ渡った顔で高代に話していく。
「自分勝手とか、そういうものだって」
「それに過ぎないと、私も思っていますが」
「ですがそれでも。上城君達を見ていると」
「僕なんだ」
上城はまさか自分の話になると思っていなかった、それで樹里に対して今の言葉に驚いた顔になって返した。
「僕がなんだ」
「そうなの、上城君はずっと戦いを止めたいって思ってるわよね」
「だから僕は戦ってね」
そしてそのうえで、というのだ。
「もうこの戦いを終わらせたいんだ」
「それはエゴだと思うわ」
「これもなんだ」
「そう、自分の考えが強い、どうしてもっていう考えは」
「そうなるんだ」
「けれどこの戦いはどう考えてもおかしいし」
欲望を適える為に殺し合う、それ自体がだというのだ。
「それを止めたいっていうエゴはね」
「いいんだ」
「そう思うわ、だからね」
「僕のエゴはいいエゴなんだ」
「先生のエゴも」
障害者の子供達を助けたい、そう思い動くことはというのだ。
「いいことだと思うわ」
「そうですか、では」
「先生、絶対にその願いを適えて下さい」
樹里は自分の横にいる高代に確かな声で告げた。
「そして戦いからも」
「降りるのですね」
「そうして下さい」
こう告げた、そしてだった。
高代は二人にだ、今は晴れ渡った顔になって言った。
「では今日の十時です」
「はい、校庭ですね」
「そこで、ですね」
「戦い、そうして」
そのうえでだというのだ。
「願いを適え戦いを降ります」
「それを見させてもらいます」
「私達が」
二人はその高代に微笑んで返した、そのやり取りが終わってからだった。
そこからだ、彼は二人にこうも言った。
「教師は生徒を育てますが」
「だから教育者ですよね」
「そうだからですよね」
「はい、しかし生徒もまた教師を育てます」
逆にだ、そうもなるというのだ。
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