六幕 張子のトリコロジー
11幕
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短いブラックアウトを経て、ルドガーたちはニ・アケリア村の参道門に立っていた。
ルドガーは手を見下ろした。ミュゼの因子が砕けると同時に現れた白金の歯車の集合体。レイアもアルヴィンも来てルドガーの手の中を覗き込んだ。
(これが〈カナンの道標〉。〈カナンの地〉に行くために必要な物。ミラの姉さんだったモノ)
感傷に駆られていると、傍らのエルがたっ、と駆け出した。
「フェイ! ミラ! だいじょうぶ!?」
――案じる声には、いるはずのない人物の名が含まれていた。
全員で勢いよく顔を上げる。
エルの行った先には、フェイと、フェイが手首を掴んだままで座り込むミラがいた。
「こんなことが、ありうるのか――」
ユリウスがぽつりと呟いたのを、ルドガーは聞き逃さなかった。
ミラは頭を振ると、フェイの手をほどいて立ち上がり、ルドガーたちを睨み据えた。
「姉さんはどうなったの? 何が起こったか説明してよっ」
肉声――生々しい肉体。幻像でも幻覚でもない。分史世界のミラ=マクスウェルが正史世界に存在している。
「……お前の世界は、俺が壊した」
「は? 意味分かんない……姉さんは!? 元の姉さんに戻るのよね?」
「あんたの知ってるミュゼは消えたんだ」
「あなたの世界と一緒に」
言い渋るルドガーを見かねてか、アルヴィンとレイアがミラに最後通牒を突きつけた。ミラは俯き、拳を握る。
「一つだけ分かった」
直後、ミラの拳がルドガーの顔面を殴り飛ばした。
「私を騙したのね!」
返す言葉もなかった。騙したのも、彼女の世界と姉を奪ったのも、ルドガーだ。甘んじて受ける以外の選択肢があろうか。そう思い、切れた唇を押さえて黙っていた。
すると、横からミラに張り手が食らわされた。もちろんルドガーではない。アルヴィンでもレイアでもない。
ミラを殴ったのは、フェイだった。
フェイの人生で、精霊術が不発なのに感情が昂ぶったのは初めてだった。体が勝手に動く、という経験を初めてした。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「何するのっ」
「だってこの人、ルドガーぶった!」
――フェイという少女は己の境遇を悲観し、達観することはあっても、それをもたらした対象を憎悪しなかった。そうやって心の殻を厚くして外界を閉め出すのが防衛だった。
だが、今は。ルドガーたちと出会い、外に出て、その殻は所々剥げ落ち、心情の吐露にためらいを失わせた。
「殴るくらい何よ! こいつは私の姉さんを殺したのよ!?」
言葉に詰まる。確かにルドガーはミラの姉を殺し、ミラの生きる世界を消した。事実だ。
フェイは胸の中で必死に言い返せることはない
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