暁 〜小説投稿サイト〜
フェアリーテイルの終わり方
六幕 張子のトリコロジー
10幕
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 村で見た時とは比べ物にならない量の黒煙がミュゼから噴き出す。

「姉さん、本当にっ……化物!」
「もう一度言ってみろ、人間が!!」

 ミュゼの手から人一人分はある闇色の球が放たれた。ミラは悲鳴を上げて立ち竦む。

「ミラっ」
「! まずい!」

 一番に跳び出したエルに、さらに先んじてルドガーが飛び出し、骸殻に変身して闇色の球を槍で打ち消した。

「ユリウス!」

 呼びかけられたユリウスが、ミラとエルを横から、両者を接触させまいとするように攫って岩の陰へ退避した。
 見計らってルドガーはアルヴィンとレイアを呼び、3人でミュゼへと挑みかかった。



 ルドガーたちの戦いの隙を見て、フェイはエルたちがいる岩陰に走って移った。

「お姉ちゃん、ダイジョウブっ?」
「君たちはここで隠れていろ。今出ても邪魔になるだけだ」

 ユリウスの手が双刀に伸びた。だがそこでユリウスは何故か、刀を取り落とし、右手で左腕を押さえて蹲った。

「おじ、さん、どう…したの? ケガしたの?」

 フェイは恐る恐るユリウスの左腕に触れた。その瞬間、脳に電流が走ったように理解する。

 ユリウスを苦しめている「これ」は精霊の力だ。それも相当に質の悪いもの。

霊力野(ゲート)があるわたしだけじゃない。ルドガーのお兄ちゃんを。バカだ、わたし! ()()()()精霊は人をいたぶって愉しむモノだっだ。霊力野(ゲート)の有る無しなんて精霊には関係なかった。精霊は、人間であれば何でもいいんだ。あの水色の精霊がミラにヒドイのも、精霊だから)

 そう思うと、今ルドガーたちと対峙しているミュゼでさえ、フェイには憎らしくて堪らなくなった。

(さっきミラが起こした火じゃ足りなかった。だったら、もっと大きな炎なら)

 イメージが現実になる。黒いミュゼの足元に緋色と青の混ざった魔法陣が光り刻まれる。
 ミュゼだけを囲って生じるのは、灼熱の水蒸気を放つ炎のドーム。

「あ、ああ、熱い! 熱い! キャアアア!」
「姉さんッ!」
「あ、ミラ!」

 ミラが岩陰から飛び出した。

 火と蒸気に焼かれたミュゼは、元より黒くなっていた体をさらに黒焦げにして地面に崩れ落ちた。
 フェイは後悔しなかった。一人の人間を十何年と苦しめた精霊への、当然の報いだ。

「もういいでしょう! 姉さんから離れて!」

 ミラはルドガーたちを押しのけて、座り込むミュゼの肩に手を置く。

「よくも……人間の分際で、よくも!」

 ミュゼがミラを押し倒し、首に両手をかける。縊り殺そうとしている。


(わたしの前で――)

 フェイは再びイメージする。火がだめだったなら、今度は水を。

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