第一章
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か」
「そうです。登場人物は同じですけれどね」
「何か話がこんがらがりますね」
「そうですか?」
オペラの話に詳しくない俺はどうもしどろもどろであったがガイドさんは違った。朗らかな様子で街を速い足取りで進んで俺に話してくれる。
「さっきから何か色々とオペラの話が出て」
「ここは多くの作品の舞台になっているんですよ」
「それは日本で聞いてましたが」
それでも俺のオペラへの関心と比べてあまりにも多い量だったので覚え切れてはいないのが実状だ。
「まさかこんなに」
「驚かれました?」
「カルメンしか知りませんでしたから」
知っていると言っても名前だけだ。流石にこれは知っていた。
「ほう、カルメンですか」
「この街が舞台ですよね」
「その通りです。けれど今はカルメンはいませんよ」
「そうですか?」
見たところ街行く女は皆小柄で黒く波打つ髪を持つあだっぽい女ばかりだった。赤や黄色のロングスカートと黒いシャツがやけによく似合う。
「カルメンみたいな女の子は一杯います」
「成程」
「そしてオレンジもね」
見れば至る所にオレンジの木がある。まるで柿の木がそこいらにあるみたいだった。それを考えるとここではオレンジが日本の柿にあたるのだろうか。
「多いですね、確かに」
「どうですか、これから」
ガイドさんはニコリと笑って俺に提案してきた。
「オレンジでも」
「オレンジだけですか?」
「むっ、そういえば」
言われて何かを気付いたようであった。
「もうお昼ですね」
「はい」
「それではシェスタ前に」
ガイドさんは提案してきた。
「昼食といきましょう」
「いい店御存知なんですか?」
「何を仰るお客さん」
妙に愛嬌のある言葉が返って来た。
「スペインですよ」
「はい」
「しかもセビーリア。何が言いたいかわかりますか?」
「いい店があると」
「そう、それも何処にでも」
彼は誇らしげに述べた。
「その中でもね」
「ええ」
自然と話に引き込まれてしまっていた。
「パエリアとステーキが美味い店がすぐ側に」
「じゃあそこに」
「しかも安い」
「いいことばかりですね」
「スペインはいい国ですよ」
また誇らしげに言ってくれたがやはり嫌味なところはない。ここがスペインの不思議なところだった。
「美人も多いですし」
「じゃあ夜はその美人を教えてもらいますか」
「いいですよ。ただ今は」
「食事を」
「行きましょう。期待は裏切りません」
「では」
こうして俺はパエリアとステーキ、そしてワインを楽しんだ。ガイドさんの紹介してくれた店は確かに美味かった。それで本当に安かった。もうフランス料理なぞ馬鹿馬鹿しくなる程だった。何とガイドさんもそれを俺に聞いてきたのだ。
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